ハラスメントハラスメント(ハラハラ)とは?企業に増える背景と人事の対応フローを解説
いわゆる「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」とは、業務上正当な指導や注意を「ハラスメントだ」と過剰に主張する言動を指す言葉です。ハラスメント防止への意識が広がる一方で、この逆説的な現象への向き合い方に悩む企業も少なくありません。指導すべき場面で管理職が言葉を選びすぎてしまい、育成や評価が滞る企業も出てきています。本記事では、ハラハラの実態から人事が整えるべき対応フローまでを解説します。
今回は、外資系企業のHRBPや日系SaaS企業の労務統括責任者を経て、現在は日系グローバル企業でEmployee Relations領域をリードする長谷川 一城さんに、ハラスメント対応の実務や、現場で感じている課題についてお話を伺いました。
<プロフィール>
長谷川 一城(はせがわ かずき)/特定社会保険労務士・公認不正検査士(CFE)
国家公務員として安全保障や外交などの業務に従事したのち、外資系企業のHRBP、日系SaaS企業の労務統括責任者を経て、現在は日系グローバル企業でEmployee Relationsの領域をリード。専門領域は、人権DD、HRコンプライアンス、Employee Relations、Labor Relations、内部通報制度、社内不正調査、懲戒手続き、ハラスメント対応、休職制度、メンタルヘルス不調対応、労働ADR、就業規則等の社内諸規程、その他の労務領域全般。特定社会保険労務士・公認不正検査士(CFE)。全国社会保険労務士会連合会「ビジネスと人権」特別委員会委員。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)とは
──ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)とは、具体的にどのような行為を指すのですか?
いわゆる「ハラスメント・ハラスメント」とは、法令上の用語ではなく、一般に、業務上必要かつ相当な範囲内で行われるコミュニケーション等に対して「ハラスメントだ」と過剰に主張し、結果として相手を萎縮させるような行為のことを指して使われる用語です。「なんでもハラスメント」と呼ばれることもあります。
ハラハラは、上司から部下に対する業務上の指導やフィードバック、ストレッチな目標の設定、体調等のコンディションに関する会話など、いずれも業務上必要とされるような場面で発生することが多い行為です。こうしたケースでは、業務上の必要性や相当性とは別に、受け手の主観として「不快だと感じたかどうか」自体をもってハラスメントであるとの主張につながることがあります。
重要なのは、ハラハラという言葉が広まったことで「指導=リスク」という空気が職場に広がりかねない点です。この空気が組織にどのような影響を及ぼすのかを、次の項で見ていきます。
なぜ今ハラハラが問題になるのか
──なぜハラハラは今、多くの企業で問題視されるようになったのですか?
ハラスメント防止への意識向上と法整備が進んだ一方、業務上必要な指導やコミュニケーションそのものを躊躇する管理職が増えている点が、ハラハラが問題視されている最大の理由です。
この背景には、次の3つの側面が複合的に重なり合っているといえます。
(1)制度面
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の改正により、大企業は2020年6月、中小企業は2022年4月から職場におけるパワー・ハラスメント防止措置が義務化され、企業側の対応感度が上がったこと
(2)心理面
管理職が「自分の指導がハラスメントと受け取られるのではないか」と過度に意識し、自己防衛的に指導やフィードバックを回避するようになったこと
(3)組織面
日頃のコミュニケーション量が少ない職場ほど、指導の一言が「攻撃」として受け止められやすいこと
実際、私が企業のハラスメント防止研修を支援するなかでも、「パワー・ハラスメントと適正な指導の違いを具体的に扱ってほしい」「グレーゾーンとなる事例を取り上げ、管理職が必要な指導までためらわないようにしたい」といった依頼が非常に増えています。
人事担当者からは、管理職が指導をためらった結果、パフォーマンスに課題のあるメンバーへの対応まで人事に委ねられ、本来のマネージャーと人事の役割分担が崩れ始めているという声も聞きます。管理職からも、「どのような言葉で伝えればよいのか」「どのような環境でフィードバックすればよいのか」といった、具体的な場面を前提とした相談が増えています。
つまり、問題は単に「ハラスメントをどう防止するか」ではありません。ハラスメントを防ぎながらも、業務上必要な指導をどう行うか。その線引きや伝え方に迷う現場が増えていることが、ハラハラが注目される背景にあると考えます。

正当な相談とハラハラを分ける判断の軸
──ハラスメントの正当な相談と、ハラハラを見分ける判断基準はありますか?
唯一絶対の基準はありませんが、まず出発点にすべきは、その会社においてどのような行為をハラスメント(パワー・ハラスメント)と定義しているのか、という点です。
例えばパワー・ハラスメントを例にとると、一般的には、就業規則やハラスメント防止規程などに、パワー・ハラスメントをしてはいけないという旨の禁止規定が置かれていたり、パワー・ハラスメントを行ったことを懲戒事由としていることが多いでしょう。ただし、会社によっては法令上のパワー・ハラスメントより広い範囲の行為を禁止行為の対象としていたり懲戒事由として定義している場合もあるため、法令上の定義だけでなく、自社規程上の定義や適用範囲を確認する必要があります。
その上で、自社の規程が法令上のパワーハラスメントを前提としている場合は、法令上の考え方を踏まえて、次の3要件に照らして事実関係を整理することが大切です。
(1)優越的な関係を背景とした言動か
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
(3)就業環境を害しているか
実際の相談対応では、少なくとも次のような観点を押さえることが大切です。
(1)客観的事実の確認
相談者本人が直接経験・認識した事実、相談者による評価・感情、伝聞情報を区別して聞き取ります。誰が、いつ、どこで、どのような言動をなぜしたのかを、メールやチャット、関係者へのヒアリングなどを通じて確認します。例えば、「上司からヒドい言い方をされた」という相談があった際に、「ヒドい言い方」というのはどちらかというとその事象の主観的な評価であり、客観的な事実関係ではありませんので、どのような点を「ヒドい言い方」と感じたのか(具体的にどのような文言だったのか、どのような態様の言い方だったのか、どのような背景があったのか等)について丁寧に確認を進める必要があります。
(2)業務上の必要性・相当性の確認
指導そのものに業務上の必要性があったか、また、その態様(伝え方)が妥当な範囲だったかを確認します。
具体的には、言動の目的、部下側の行動や業務上の問題の有無、やり取りに至った経緯、言動の態様・頻度・継続性、双方の関係性、本人の心身の状況などを総合的に検討します。記録された言動そのものだけで判断するのではなく、そのやり取りに至った背景や経緯まで確認することが重要です。
実際の相談対応でも、言葉だけでは判断できないケースは少なくありません。あるケースでは、部下が上司のメール上の言葉をパワー・ハラスメントと感じ相談に至りました。上司と部下のやり取りはメールに残っており、誰がどのような発言をしたのかは確認できました。しかし、そのやり取りに至った経緯はそのメールだけでは把握できなかったため、間接的な証拠を収集・分析し、関係者へのヒアリングを重ねながら、具体的な時系列や背景等を整理しました。
そのうえで、就業規則に定められたハラスメントの定義に照らして検討した結果、必要な要件を客観的に確認できず、ハラスメントの事実認定には至りませんでした。
一方で、ハラスメントに該当しないからといって、上司の言動に問題がなかったわけではありません。コミュニケーションの取り方には改善すべき点が認められたため、その点については別途業務上の指導が行われました。当事者には、「規程上のハラスメントには該当しない一方で、上司の言動には改善すべき点がある」と、それぞれの判断を分けて説明することで、納得感を得ることができました。
ここで注意したいのは、「これはハラハラだ」と安易にラベリングすることのリスクです。ハラハラという言葉が独り歩きすると、本当に被害を受けた従業員が声を上げにくくなる恐れがあります。
重要なのは、ハラスメントに該当するかどうかと、職場で改善すべき言動があるかどうかを切り分けて考えることです。 人事は、当事者双方の主張を客観的な立場から俯瞰して受け止め、事実関係と背景を丁寧に確認したうえで、それぞれを分けて判断する姿勢が求められます。
人事が整えるべき対応フロー
──ハラハラの疑いがある相談を受けたとき、人事はどのような対応フローを整えるべきですか?
従業員から相談や通報があり、その内容が一見するとハラハラのように思われる場合でも、最初から「ハラハラである」と決めつけてはいけません。属人的な判断に頼らず、受付・事実確認・判定・フィードバック・記録という5段階を基本の型として整えておくことが重要です。
(1)受付
相談者の話をまず遮らずに聞き、感情面に配慮しつつ、相談内容の概要を主観と伝聞、客観事実を明確に分けて聞き取る。
(2)事実確認
メールやチャット履歴などの客観的な証拠を収集し、やり取りの前後関係や具体的な時系列を確認します。その上で、認定すべき事実を整理し、必要に応じて、相談者や関係者等への個別ヒアリングを行います。
(3)判定
就業規則やハラスメント防止規程に定められた定義、必要に応じて法令上の要件などに照らして判断します。社内だけでは客観性の確保が難しい場合は、外部弁護士などの専門家を交えることも有効です。ハラスメントに該当すると判断した場合は、懲戒処分の要否(その行為が懲戒事由に該当するかどうか、該当する場合はどの程度の量定になるか等)も検討します。
(4)フィードバック
必要な社内プロセスを経て決定された判定結果とその理由を、相談者と当事者へ丁寧に説明します。ハラスメントに該当しなかった場合も、判断の根拠や別途改善すべき言動があったかどうかを分けて伝えることが重要です。
(5)記録
対応の経緯を記録し、同様の相談が繰り返される場合の判断材料として蓄積します。
特に(3)の判定段階は、社内だけで完結させると「身内びいき」という印象を与えかねません。外部弁護士など第三者の視点を組み込む設計が、双方の納得感を高めます。
ただし、対応フローをマニュアル化すれば、それだけで安定した運用ができるわけではありません。実際には、手順が設けられた背景や目的を理解しないまま、マニュアルに記載された内容を機械的に適用してしまうケースがあります。
ある企業のマニュアルでは、ヒアリングの冒頭に「このヒアリングが行われることになったきっかけについて詮索してはいけない」と相手に伝えることが定められていました。これは、内部通報制度における通報者の匿名性を守るための重要な手順です。
一方で、この説明が必要なのは、主に被通報者や関係者です。通報者本人に対して同じ説明を行う必要はなく、対象を区別せずにマニュアルどおり伝えると、「なぜ自分が詮索する前提で話されるのか」と、かえって不信感を抱かせる可能性があります。
このように、実際の相談対応では、マニュアルだけではカバーしきれない臨機応変な対応が求められるケースも少なくありません。細かな手順を定めるだけでなく、なぜその手順が必要なのかという背景や意図を担当者全員が理解しておくことが重要です。対応フローは、担当者の判断を不要にするものではなく、共通の判断軸を持ちながら、状況に応じて適切に対応するための土台として設計する必要があります。
現場・管理職を萎縮させないための設計
──管理職が指導をためらわずに済むよう、人事はどんな仕組みを設計すればよいですか?
管理職の個人技に頼るのではなく、指導内容を記録・共有する仕組みと、人事が適切に介入する姿勢を明示することが、萎縮を防ぐ設計の中心になります。
(1)指導ログの記録
重要な指導は、本人との認識をすり合わせた上で記録を残します。客観的なファクトとして事後的に状況を把握できるようにします。
(2)人事による適切な介入
指導の結果として何らかのトラブルに発展した場合であっても、人事が適時・適切に介入し、事実関係を丁寧に確認したうえで客観的な立場から対応することを、あらかじめ管理職へ伝えておくことも大切です。業務上の指導に関する対応を全て管理職だけに負わせるのではなく、人事部門が客観的な立場から適切に介入するという姿勢を示すことで、過度な萎縮を防ぎやすくなります。
(3)管理職だけでなく、メンバーにも共通認識を持ってもらう
管理職向けのハラスメント防止研修は重要ですが、それだけでは十分とは言えません。実際には、「どこまでが適切な指導で、どこからがハラスメントなのか」という認識が管理職とメンバーで異なっていることが、ハラハラにつながるケースも少なくありません。
そのため、研修では管理職だけでなくメンバーも対象に、自社では何をハラスメントと定義しているのかを共有し、共通認識を持つことが重要です。
(4)対話文化の醸成
1on1などを通じて、上司と部下の信頼関係を築いておくことも欠かせません。普段からコミュニケーションが取れている職場では、必要な指導も業務上のフィードバックとして受け止められやすくなります。
私がハラスメント防止研修を行う際も、必ず「この会社では何をハラスメントと定義しているのか」を全員で確認する時間を設けています。ハラスメントに対する前提認識が人によって異なれば、同じ言動でも受け止め方は大きく変わります。管理職だけでなくメンバーも含めて共通認識を持つことが、ハラハラを防ぎ、安心してフィードバックし合える職場づくりにつながると考えています。
ハラスメント・ハラスメントの予防策
──ハラハラを未然に防ぐために、企業はどのような対策を講じられますか?
「何がハラスメントで、何がそうでないか」を全社員が共通認識として持てる状態をつくることが、ハラハラに対する最大の予防策になります。
実際の職場では、日常的なコミュニケーションのすれ違いがハラスメントとして相談・通報され、相談窓口の対応が逼迫するケースがあります。こうした状態が続くと、組織運営そのものにブレーキがかかるだけでなく、管理職が「リスクのある指導は人事が担うべきだ」と考えるようになり、本来担うべきフィードバックや育成を避けるようになる可能性もあります。
(1)自社におけるハラスメントの定義を共有する
研修では、法令上の定義や禁止事項を伝えるだけでなく、「この会社では何をハラスメントと捉えるのか」を全員で確認します。具体例や図を用いることで、ハラスメントに該当する言動、該当しない言動、認定には至らないものの改善が必要な言動を整理しやすくなります。

(2)就業規則や防止規程を具体化する
規程があまりにも抽象的すぎると従業員だけでなく人事も判断に迷います。定義や禁止行為をある程度分かりやすく見直し、具体例を加えることで、相談対応時の判断軸も共有しやすくなります。
(3)現場・HRBP・労務が早期に連携できる仕組みをつくる
現場管理職、HRBP、労務部門の間で情報共有の流れを定め、指導内容の記録方法やレビュー手順を標準化します。すれ違いが深刻化する前に管理職が相談でき、人事も必要に応じて介入できる状態を整えることが重要です。
こうした共通の判断軸があると、相談者への説明にも一貫性を持たせやすくなります。研修で使用した図を用いながら、どこまで事実として確認できたのか、なぜハラスメント認定や処分に至らなかったのか、不適切な言動にはどのように対応するのかを説明できます。
重要なのは、予防策を「研修を実施した」「規程を整備した」で終わらせないことです。共通の判断軸を実際の相談対応まで一貫して活用し、現場からの相談や運用上の課題を踏まえて見直し続けることで、ハラハラが生じにくい環境づくりにつながります。
よくある失敗パターン
──ハラハラ対応で人事が陥りやすい失敗にはどのようなものがありますか?
「事なかれ対応」と「一律の厳格対応」という両極端に振れてしまうことが、ハラハラ対応で最も多い失敗パターンです。
(1)事実確認を省き、訴えた側の主張だけを鵜呑みにして管理職を一方的に処分してしまう
(2)「業務上必要な指導だった」と早い段階で決めつけ、相談者の話を十分に聞かない
(3)判断に時間がかかりすぎ、対応を先延ばしにした結果、相談者と管理職の双方に不信感が募る
(4)研修や規程を整備しただけで安心し、継続的な運用・見直しをしないまま形骸化させる
繰り返しにはなってしまいますが、こうした失敗を防ぐうえで見落とされやすいのが、そもそも自社で何をハラスメントと定義するのかという点です。
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの法的な定義を繰り返し伝えるだけでは、実際の職場で起きる問題に十分対応できないことがあります。現場で多いのは、明確にハラスメントと認定できる事案だけではなく、「不適切ではあるが、法令上のハラスメントには該当しない」といったグレーゾーンのケースだからです。
そのため、法律上の定義を説明するだけでなく、自社ではどのような言動を問題とし、どのような場合に指導や処分の対象とするのかを、自社の就業規則やハラスメント防止規程等の規定も踏まえてしっかりと整理しておく必要があります。
この場合、規程の表現があまりにも抽象的すぎると、従業員だけでなく、人事自身も判断に迷います。その都度の判断や解釈に幅が生まれ、一貫性を保てないということも考えられます。人事が規程の解釈に迷う状態では、相談者や管理職に一貫した説明をすることも難しくなります。
もちろん、あらゆるケースを規程で細かく定めることはできません。また、懲戒処分の可能性を狭めないために、一定の幅を持たせて規定する必要がある場合もあります。それでも経営層や人事、必要に応じて外部専門家も交えながら、「自社では何をハラスメントと考えるのか」を議論し、運用上のガイドラインレベルでも良いので共通認識をつくることは欠かせません。
正当な指導とハラハラを区別するには、個別の相談を受けてから判断基準を探すのではなく、平時から自社の考え方を整理しておくことが重要です。研修、規程、相談対応で同じ判断軸を使える状態をつくることで、表面的な対策に終わらず、実際の現場で機能するハラスメント対応につながります。
編集後記
ハラハラへの対応で重要なのは、訴えがあったからといってすぐに判断するのではなく、事実を確認し、業務上必要な指導だったのかを丁寧に見極めることだと改めて理解しました。そのためにも、自社では何をハラスメントと捉えるのかを整理し、人事と管理職で認識をそろえておくことが大切です。指導する側もされる側も安心できる環境を、日頃から整えておく必要があるのではないでしょうか。









