【イベントレポート】AI時代における管理職の再定義を考える/CORNER DAY Vol.24
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生成AIやAIエージェントの進化によって、組織運営の前提そのものが変わり始めています。定型業務や情報整理、進捗管理など、これまで管理職が担ってきた役割の一部はAIによって代替されつつあります。一方で、意思決定や人との関係構築、組織の方向性を示す役割の重要性はむしろ高まっているという声もあります。では、AIと共に働く時代に、管理職には何が求められていくのでしょうか。
Vol.24となる今回は、「AI時代に向けた管理職に求められること(AI時代における管理職の再定義)」をテーマに掲げ、以下の問いについて参加者でディスカッションを行いました。
<問い>
(1)AIの活用が進む中で、これから管理職にどのような役割や期待を置いていきたいか
(2)これからの管理職に求められる力は、従来と比べてどのように変わると感じているか
(3)AIと共に働く時代に人やリーダーが発揮すべき価値とは
(4)そうした力を育むために、役職や昇進以外でどのような機会や経験を設計できそうか
本記事では、事例共有の内容や議論のハイライトをご紹介します。
目次
AI時代の組織・人事はどう変わるのか
株式会社SilverX 共同創業者 CAIO 藤澤専之介氏による事例共有
ディスカッションに先立ち、株式会社SilverX 共同創業者 CAIO(Chief AI Officer)の藤澤専之介氏より、「AIエージェント時代の人事〜組織・管理職・評価制度の再設計〜」をテーマに事例共有が行われました。
藤澤氏は、2026年を「AIエージェント本格普及元年」と位置づけます。これまでの生成AIが人の問いに対して回答を返す「ツール」として活用されてきたことに対し、自律的に業務を遂行するAIエージェントへと進化しつつあると説明しました。AIは「使うもの」から「“雇う”(共に働く)もの」に変化しています。
こうした変化を背景に、海外ではAI戦略を統括するCAIO(Chief AI Officer)の設置が急速に進んでいます。AI活用はもはやIT部門だけのテーマではなく、人事評価や組織設計、ガバナンスを含む経営課題になっていると強調されました。
特に印象的だったのは、「AIエージェントの採用・配属・評価・処遇は、まさに人事の仕事である」という視点です。AIが組織の中で実際に業務を担うようになることで、人事の役割も人間だけを対象にしたものではなくなりつつあります。CAIOとCHROが並走しながら組織変革を進める時代が訪れるのではないかという問題提起がなされました。
一方で、AIへの投資が必ずしも成果につながっているわけではありません。
藤澤氏は、海外調査を引用しながら、多くの企業がAIに投資しているものの、増収やコスト削減といった成果を十分に実感できていない現状を紹介しました。その背景には、人間を前提に設計された既存の業務プロセスや組織構造の上にAIを導入していることがあるといいます。AIを活かすためには、ツールを導入するだけではなく、業務プロセスや組織そのものを再設計する視点が求められるという指摘です。
また、ドラッカーの「マネジメントとは人を生産的にする責任である」という考え方を引用しながら、マネジメントの本質は変わらない一方で、その対象は変化していると意見されました。
これまでの管理職は、人間の部下を通じて成果を出す存在でした。しかしAIエージェントが組織の一員として機能するようになると、人だけでなくAIエージェントも含めたチーム全体の成果を最大化する存在へと役割を広げていく可能性があります。
AIによって組織構造そのものが見直される可能性についても触れられました。従来のピラミッド型組織だけではなく、中間層を厚くしたダイヤモンド型や、少人数で高い成果を生み出す組織モデルなど、新たな組織のあり方が海外を中心に議論されているといいます。
AIによって情報伝達や調整コストが大幅に下がることで、「なぜその組織構造が必要なのか」「なぜその役職が存在するのか」という前提そのものが問い直され始めているのです。
AI時代に求められるリーダーシップとは
藤澤氏からの事例共有や問題提起を受け、参加者は4つのグループに分かれてディスカッションを行いました。ここからは、議論の中で特に多く挙がった論点をご紹介します。
まず議論の中心となったのは、「AI時代に管理職やリーダーには何が求められるのか」という問いでした。
参加者の多くが共通して挙げたのは、管理職の役割そのものがなくなるわけではなく、求められる役割の重心が変わっていくのではないかという考え方です。AIによって情報収集や分析、進捗管理などの業務は効率化されていく一方で、人が担うべき役割はより鮮明になっていく。
その中で重要になる力として、
・問いを立てる力
・意思決定する力
・責任を引き受ける力
・人を動かす力
が挙げられました。
また、「EQ(感情知性)」の重要性を指摘する声も複数のグループで共有されました。AIによって誰もが論理的な答えにアクセスできる時代だからこそ、異なる価値観や立場を持つ人々を巻き込み、納得感をつくりながら組織を動かす力が差別化要因になるのではないかという意見です。
参加者からは、
「AIは正しい答えを返してくれるかもしれない。しかし、その答えを今やるべきなのか、組織としてどちらを選ぶのかを決めるのは人間の役割だ」
という声も聞かれました。
AIが業務を支援する時代だからこそ、管理職には「正解を持つ人」ではなく、「問いを立て、意思決定し、人と組織を前に進める人」としての役割がより強く求められるのではないか。そんな共通認識が形成されていきました。
AIは組織構造とキャリアの前提を変えるのか
議論は管理職個人の能力だけでなく、組織構造そのものへと広がりました。AIによって一人ひとりの生産性が大幅に向上した場合、現在の組織階層や役割分担はそのままで良いのか、という論点です。
参加者からは、
「管理職が情報の中継点として存在する組織構造は見直されるかもしれない」
「AIを活用することで、職種や専門領域の境界はこれまで以上に曖昧になるのではないか」
といった意見が挙がりました。
実際にAIを活用することで、一人の社員が複数の専門領域にまたがりながら成果を出せるようになっている事例も共有されました。従来は、専門職として経験を積み、管理職へ昇進することがキャリアの前提でした。しかしAIによって専門知識へのアクセスコストが下がることで、必ずしも役職を持たなくても大きな影響力を発揮できる可能性があります。
その結果、管理職ポストを前提とした育成やキャリア設計そのものを見直す必要があるのではないかという議論にもつながりました。
一方で、組織構造が変わるからこそ、
「何を大切にする会社なのか」
「どのような未来を目指すのか」
という理念や哲学の重要性が高まるのではないかという声も聞かれました。
変化のスピードが速い時代だからこそ、組織としての軸がなければ意思決定できなくなる。そんな危機感も共有されました。
AI活用の先に問われる「問いを立て、見極める力」
議論の中では、「AIを使えること自体は、いずれ差別化要因ではなくなる」という意見も多く聞かれました。現在はAIを活用できる人材が成果を出しやすい状況ですが、今後は誰もが当たり前にAIを使うようになるということです。参加者からは、「電卓が普及した後に、暗算の速さだけでは差がつかなくなったのと同じ」という例えも挙がりました。
AI活用の先に評価されるのは何か、という議論では次のような人間ならではの能力があがりました。
・ビジョンを描く力
・問いを設定する力
・判断する力
・誠実さ
・リーダーシップ
AIによって情報の民主化が進む一方で、新たな課題も生まれています。
「社員が生成AIを使い、制度や規程の穴を探して人事に論理武装してくる」
「AIで作成された大量のドキュメントが飛び交い、本質的な議論が見えづらくなっている」
といった現場の声が共有されました。
こうした状況だからこそ、管理職や人事には、表面的なロジックではなく、『そもそも何が課題なのか』『問いそのものは正しいのか』を見極める力が求められるのではないかという議論につながりました。
AI時代のリーダーをどう育てるか
今回のテーマでは、「どのような管理職が必要になるか」だけでなく、「その力をどう育むか」という観点でも活発な議論が行われました。
参加者からは、従来の昇進・昇格を前提とした育成だけでは限界があるのではないかという意見が挙がりました。AIによって業務の一部が代替される中で、これから求められるのは、役職の有無にかかわらず意思決定やリーダーシップを発揮できる人材です。
そのためには、
・小規模なプロジェクトを率いる経験
・組織横断の課題解決
・新規施策のオーナー経験
・AIを活用しながら成果を出す経験
など、役職以外の場でリーダーシップを発揮する機会を意図的に設計することが重要ではないかという意見が共有されました。
管理職ポストが限られる時代だからこそ、「役職についてから育てる」のではなく、「役職がなくても育つ仕組み」をどうつくるかが、人事にとって重要なテーマになりそうです。
AI時代に人事が向き合う新たな葛藤
今回の議論はAI活用の可能性だけではなく、その裏側にある葛藤にも及びました。特に印象的だったのは、AI活用とダイバーシティ推進の両立というテーマです。
AI活用が急速に進む企業の例では、産育休から復帰した社員が「半年前とまるで別の会社になっていると感じるほど変化が早い」という声をあげているそうです。組織の進化スピードが加速する中で誰もが同じペースで変化に適応できるわけではありません。同じように、AIを使いこなせる人とそうでない人の差がますます広がっていることへの懸念も示されました。
そうした状況を踏まえたときに、
・採用段階でどこまでAIリテラシーを見るべきなのか。
・配置転換や育成によってどこまで支援できるのか。
・変化についていけない人に組織はどう向き合うべきなのか。
現時点の正解は見つかっていません。
「変化を前提にすることと、人を切り捨てることは違う」「人事こそが、そのバランスを考える役割を担うべきではないか」というスタンス面への意見もあがりました。
AIの進化は、業務効率化だけではなく、人事制度や組織運営、そして人材育成の前提そのものを問い直すテーマであることを改めて感じさせる議論となりました。
参加者の声
議論後の参加者の感想を一部ご紹介します。
『AIの活用方法(HOW)ではなく、「AI時代に管理職や人事の役割はどう変わるのか」という本質的なテーマについて議論できたことが印象的でした。AIを活用しながらも、組織を変革していくリーダーシップの重要性を改めて感じました。』
『AIによって効率化が進む一方で、「問いを立てる力」や「方向づけ」、「人や組織への向き合い方」の価値はむしろ高まるという議論に共感しました。人にしか担えない役割について改めて考える機会になりました。』
『AI時代に管理職や人事に求められるのは、判断力や意思決定力、人間力、そして哲学であることを再認識しました。また、領域や専門性の壁を越えた自律型組織との親和性の高さについても考えさせられました。』
『急速に変化する環境の中で、答えのない問いに向き合う皆さまと対話できたことが大きな学びでした。変わるもの、変わらないもの、そして揺り戻しが起こるものを多角的に捉えながら、組織のあり方を問い直す時間になりました。』
まとめ
今回のCORNER DAYでは、「AI時代に管理職はどう変わるのか」という問いを起点に、多様な立場の人事責任者や経営者が意見を交わしました。AIによって管理職の業務の一部が変化していくかもしれません。一方で、組織として何を目指すのかを考えること、問いを立てること、意思決定をすること、人を巻き込みながら前に進めることといった役割の重要性は、むしろ高まっていくのではないかという意見が多く聞かれました。
また、今回の議論では、管理職個人のスキルだけでなく、組織構造やキャリアのあり方、人材育成、評価制度など、人事が向き合うべきテーマの広がりも改めて浮き彫りになりました。
AI時代の管理職像に、まだ明確な解はないからこそ、人事や経営に携わる人々がそれぞれの実践や葛藤を持ち寄りながら、「これからの組織に必要なリーダーシップとは何か」を問い続けることが重要なのではないでしょうか。
当社・コーナーは、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 24:参加者一覧>※50音順
荒川 大佑氏(株式会社マクロミル)
石原 健一朗氏(ダイドードリンコ株式会社)
小笠原 修裕氏(クリエーションライン株式会社)
唐澤 一紀氏(株式会社Nint)
高橋 真寿美氏(STORES株式会社)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
野田 敬子氏(株式会社CARTA HOLDINGS)
林 孝行氏(VALUENEX株式会社)
舟木 祐介氏(テレイグジスタンス株式会社)
宮田 ゆかり氏(フリーランス)
平岡 いづみ氏(サグリ株式会社)
吉田 有里恵氏(Findy株式会社)
ほか複数名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージメント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには
CORNER DAY vol.16:事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは
CORNER DAY vol.17:人事は事業に対してどこまで踏み込むか
CORNER DAY vol.18:次世代幹部人材の発掘
CORNER DAY vol.19:中長期の事業を考えた際の人事体制
CORNER DAY vol.20:これからのミドルマネジメントの役割と人事としてできること
CORNER DAY vol.22:人事におけるAI活用
CORNER DAY vol.23:人事としての全体最適・個別最適のバランスと判断軸