ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバックとは?使い分け・効果的なやり方をSBIモデルで解説
相手の行動や成果に対して意見・評価・情報を返し、その成長や改善を促すコミュニケーション手法である「フィードバック」。その中でも「ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバック」と2つの種類があり、目的に応じて使い分ける必要があります。
今回は、この領域に知見を持つ土田 光範さんに「ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバック」の概要から効果的に行うためのポイントを伺いました。
<プロフィール>
土田光範/Stanley Black&Decker Japan
フッ素樹脂コーティングメーカーにて労務管理、採用、研修、決算などバックオフィス全般を担い、働き方改革対応や各種システム導入、人事評価制度刷新を推進し、評価と賃金の連動やエンゲージメント向上に貢献したのち、外資系バッテリーセパレーター企業にてJapan HR Headととして勤務し、TSAに伴う就業規則・労働協約改定、労組対応、人事労務システム更新、採用、人事評価・教育制度構築などのPMI業務を担当。東証一部ITメーカーのHRBPマネージャーを経て、現在Stanley Black&Decker JapanにてJapan Plant HR Headとして、グローバルとローカルの制度のPMI、チェンジマネジメントを推進中。
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目次
「ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバック」とは
──フィードバックには「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」がありますが、それぞれどのような特徴がありますか?
フィードバックは単なる『評価通知(Rating)』ではなく、個人が望ましい行動や目標に到達できるようサポートする『情報提供(Informing)』です。目標と現状のギャップを埋めるための『ナビゲーション』に例えられることが多いことからも分かるように、フィードバックは相手の成長を後押しする『未来志向の対話』であると言えます。そんなフィードバックには「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」の2つの側面があり、それぞれに異なる役割と特徴があります。

■ポジティブフィードバック
単なる賞賛に留めず、個人の行動の中で『組織として価値のある行動』や『継続すべき成功パターン』を具体的に言語化することで良い行動の再現性を高めます。また、『なぜ良かったのか』を論理的に伝えることにより本人の自己効力感を向上させ、次なる挑戦へのエネルギーを生み出す効果も期待できます。
■ネガティブフィードバック
『より良い成果につなげるための行動』や『成長のために意識したいポイント』を事実に基づいて伝え、前向きな行動変容を促します。これらは人格を否定したり、感情的に指摘したりするものであってはなりません。なぜなら、脳科学の観点からも叱責や脅威を感じると人は防衛本能が働いて思考力が低下することが分かっているからです。
──『ネガティブフィードバック=悪いもの』と誤解されるケースが多いように感じますが、人事としてどのように捉えておけると良いでしょうか?
確かに、現場において『ネガティブフィードバック=悪いもの・避けるべきもの』と誤解されてしまうことはよくあります。これは『ネガティブ』という言葉の響きから、相手を否定したり、モチベーションを下げたりする行為と捉えられがちだからです。一方で、『ポジティブフィードバック=ただ表面的に褒めるだけ』という誤解もよくあります。
「ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバック」のいずれも、その目的は『行動変容』です。したがって、フィードバックにおいては『対象者の行動』にフォーカスします。そこで有用なのがSBIモデル(Situation/Behavior/Impact)というフレームワークです。このSBIモデルは、対象者の行動を論理的に把握するためのフレームワークであり、次の3つの側面を検討します。
(1)どのような状況で(Situation)
(2)どのような行動をとったのか(Behavior)
(3)それが会社にどのような影響を与えるのか(Impact)
このSBIモデルを使用すれば、「ポジティブフィードバック」は良い結果につながった行動を継続してほしいと論理的に伝えることで行動の再現性を高められます。一方、「ネガティブフィードバック」では状況と行動を明確にすることで『何が課題か』ではなく『どうすればより良くなるか』という未来志向で伝えられます。

人事としては、ポジティブ/ネガティブの二元論ではなくどちらも『行動変容のためのツール』であること、そして対象者の成長につながる行動変容を促すために状況に応じて使い分ける必要があること、の2つを認識・理解しておくことが重要です。
フィードバックの本質
──ポジティブ/ネガティブの区分に関わらず、フィードバックの本質的な目的とは何だと考えますか?
フィードバックの本質は、『過去の審判』ではなく『未来への投資』にあります。多くの組織で誤解されていますが、フィードバックの目的は相手の至らない点を指摘して正すことではありません。『相手の行動の質を高め、将来の価値創出能力を最大化すること』こそが真の目的です。
行動科学において、フィードバックは『個人の行動に対し、外部から情報を与えることで、次の行動選択の確率を変化させる介入』と定義されています。つまり、フィードバックとは精神論ではなく、行動変容を設計する『技術(サイエンス)』なのです。
適切なフィードバックループが回っている環境では、メンバーは『自分の行動が周囲にどのような影響を与えているか』を客観視でき、自律的な修正(セルフ・コレクション)が可能になります。この自律性こそが、よりよい行動変容において最も重要です。例えば、ミスをしたことに対して執拗な指摘を繰り返すと、隠蔽体質や挑戦回避という行動変容を引き起こしてしまいます。一方で、成長を目的としたフィードバックは、エイミー・エドモンドソン教授が提唱する『心理的安全性』を強化し、双方向の対話を通じて『あなたは組織にとって重要な存在であり、より良くなれると信じられる』ことが可能となります。その結果、自己の行動をより良いものにしようというモチベーションが生まれるのです。

フィードバックの重要性
──フィードバックの重要性について教えてください。
フィードバックは、単なる評価や指摘の手段ではなく、組織や個人の成果を継続的に高めていくための基盤となる取り組みだと考えています。特に重要なのは、信頼関係の構築、人材の成長促進、そして事業推進への波及効果という三つの側面です。
■信頼関係構築
フィードバックをするためには、相手を注意深く見ておく必要があります。『最近どう?』といった対象者に丸投げのフィードバックではなく、日常的に率直かつ建設的なフィードバックを交わすことは、『自分のことをきちんと見てくれている』『成長を期待してくれている』という安心感や信頼感に繋がります。さらに、前述したSBIモデルを活用して行動にフォーカスしたフィードバックを行うと、良い点も改善点も事実や具体例に基づいて伝えることになるため、評価の透明性が高まります。これにより不信感や誤解が生じにくくなり、公正な関係が築かれます。また、フィードバックを通じて失敗や課題も共有し、一緒に改善へと向かう関係が構築されることにより、強固な人間関係構築につながります。
■人材育成
フィードバックは、従業員1人ひとりの成長を加速させるために不可欠な仕組みです。日々の業務を通じて、上司や同僚からの具体的なフィードバックを受けることで自身の強みや課題を客観的に把握でき、成長の方向性を明確に描くことができます。また、フィードバックを通じて『できていること』『さらに伸ばせること』が明確になると、自己効力感やモチベーションが高まり主体的な学びやチャレンジが生まれやすくなります。さらに、心理的安全性が強化され、自己の行動変容に対してモチベーションが高くなるため、育成効果もいわゆる“やらされ”状態と比べて高くなることが確認されています。
■事業推進
現在のビジネス環境には、大きく3つの環境変化があります。
1つ目は、『正解のない業務が増加していること』です。かつてのような定型業務であればマニュアルで事足りましたが、VUCA(不確実性)の時代においては状況に応じた自律的な判断を求められます。この際、上司や同僚からのタイムリーなフィードバックが羅針盤となり、判断の精度とスピードを担保する重要な学習インフラとなります。
2つ目は、『人材の流動化とエンゲージメントの相関』です。特に、ミレニアル世代やZ世代は報酬以上に『自己成長』や『貢献実感』を重視する傾向が強いと言われています。ギャラップ社の調査によれば、上司から定期的に強みにフォーカスしたフィードバックを受けている従業員は、そうでない従業員に比べてエンゲージメントが約30倍も高いというデータがあるほどです。つまり、フィードバックの欠如は成長実感の欠如に直結し、優秀な人材の離職リスクを高めることにつながります。
3つ目は、『組織の俊敏性(アジリティ)の向上』です。多くの企業が半期・期末で2度の人事考課面談を導入しているかと思いますが、半年に一度の人事考課面談だけでは市場の変化に対応できません。日常的な『マイクロフィードバック』によって軌道修正を繰り返す組織だけが、高速で自身の行動のPDCAを回して適応力を上げることができます。
以上から、フィードバックは組織の生産性・定着率・適応力を決定づけ、企業の競争力の源泉となり得るものだと捉えています。
フィードバックを効果的に行うためのポイント
──「ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバック」双方に共通する効果的な実施ポイントにはどのようなものがありますか?
『フィードバックは個人の資質に依存する』という誤解がありますが、フィードバックは『技術』であるため、訓練次第では誰でも効果的なフィードバックを行うことができます。
効果的なフィードバックを行うためには、フィードバックの“型”を習得することが必要です。その型とは、次の4つの要素を満たすことを指します。
(1)SBI情報の網羅(Situation/Behavior/Impact)
『もっと積極的に』などの抽象的な言葉は避け、状況(S)、行動(B)、影響(I)をセットで伝えなければなりません。以下の例のように、事実ベースで話すことで感情的な対立を防ぎ、課題解決の議論へと誘導できます。
・悪い例:『君のプレゼンはわかりにくい』
・良い例:『先日の会議で(S)、結論からではなく背景から話し始めたため(B)、決裁者が時間切れで退出してしまった(I)』
(2) Be(人格)ではなくDo(行動)にフォーカスする
特に「ネガティブフィードバック」の際には、性格や能力への批判は厳禁です。『君は責任感が足りない』などの人格否定は感情的にも許容できるものではありませんが、脳科学の観点からも叱責や脅威を感じると人は防衛本能が働いて思考力が低下し、学習を阻害してしまうとされています。『責任感が足りない』と人格否定をするのではなく、『報告のタイミングが遅れている』など行動への指摘に留めることで、相手は『行動を変えればいいのだ』と前向きに捉えることができます。
(3)心理的安全性
『何を言うか』以上に『誰が言うか』がフィードバックにおいては重要です。日頃から正しい「ポジティブフィードバック」を行い『自分を見てくれている』という信頼感や公平感を積み上げている関係性があって初めて、「ネガティブフィードバック」も『自分のための助言』として受け入れられるものです。一般的に、ポジティブ対ネガティブの黄金比は『3:1』が望ましいとされているため、まずは今後も継続してほしい行動にフォーカスして「ポジティブフィードバック」を行い、関係性を築いていきましょう。
(4)リアルタイム性
行動とフィードバックの間隔が空くほど学習効果は薄れます。なぜなら、半年前のミスを指摘しても『何が起きたのか』『なぜ起きたのか』などを思い出すことは容易ではないからです。『鉄は熱いうちに打て』の格言通り、良い行動も悪い行動も直後にフィードバックすることが最も学習効率を高めるポイントです。
フィードバックが個人と組織の成長に繋がった事例
──「ポジティブフィードバック/ネガティブフィードバック」を適切に行ったことで、個人の行動変容や組織の成長につながった事例について教えてください。
コロナ禍で営業メンバーの働き方がリモートワーク中心になり、中でもインサイドセールスは完全在宅勤務となった企業がありました。変更直後はそこまで影響がないように見えましたが、時間経過と共に『商談獲得率』が落ち込んでしまったのです。
また、上司との1on1の中で『What(何を成し遂げたか)』を確認する際、目標に到達していないと『Why(なぜできなかったのか)』を深堀していくスタイルとなっていました。出社し対面で行っていたときにはサポーティブな雰囲気も醸し出しやすく問題もありませんでしたが、オンライン会議での1on1では『なぜの確認が指摘に聞こえてしまう』と感じる方が多いことも、パルスサーベイのスコア低下原因を調べていく過程で明らかになりました。
そこで、『商談獲得数』だけを見る評価から、商談獲得に至るまでの架電、ホワイトペーパーの送付、MAツールの管理などのプロセスに対する「ポジティブフィードバック」中心の1on1へと切り替え、チャットにベストプラクティスとしてメンバーに共有する形で承認を高めるようにしました。
具体的には、1on1のフォーマットを『What(何を成し遂げたか)』のみから『WhatとHow(何を・どのように成し遂げたか)』の2軸に変更し、そのフォーマットに沿って1on1を実施できるようにマネジャーに対しての教育も合わせて行いました。さらに、マネジャーのKPIに『パルスサーベイの上司サポート項目の推移』を取り入れ、マネジャーのやるべきこと(目標)として組み入れたのです。
これにより、マネジメントメンバーは『アポイントが取れたこと』だけでなく『顧客の課題を聞き出す質問ができていたこと』などを具体的に称賛し、失敗時も『アプローチの何を変えればよいか』を一緒に考えることができるようになりました。評価軸も『数字』だけでなく、『いかにベストプラクティスを生み出せるか』を重視するように変えました。
その結果、メンバーの行動の“質”だけでなく“量”も自然と増え、半年後にはチーム全体の商談獲得率はコロナ禍前の1.5倍、受注率は20%も向上するという成果を残すことができました。
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編集後記
『フィードバック=相手の至らない点を指摘して正すこと』という誤解は多くの現場で見られる印象です。ひとくちにフィードバックと言っても、ポジティブ/ネガティブの2方向からのアプローチがあること、どちらも『相手の行動の質を高め、将来の価値創出能力を最大化すること』が本質であることを理解した上で、フィードバックの“型”を踏まえて訓練も進めていけると良いのではないでしょうか。





