二度の産休復帰からの気づきがヒント。誰もが楽しく働きながら成果を出し続ける組織づくりのプロ

HR領域におけるスペシャリストがバトンをつなぐ形式で体験談を紹介していく「リレーインタビュー企画」。今回は、平岡いづみさんにお話を伺いました。
衛星データを活用したAI技術で農業の課題を解決するサグリ株式会社にて、人事責任者として人事業務や広報業務を担っている平岡さん。リクルートエージェント(現:リクルート)で活躍した後、複数のベンチャー企業などを経て現職に就いています。また、子育てと両立しながらキャリアを築いてこられるなど、自身の境遇が変わる中でも成果を出し続けてきました。
今回は、そんな平岡さんのこれまでのキャリア変遷をお伺いしながら、働く環境や境遇が変わる中でも成果を出し続けるための考え方や心構えを伺ってきました。
<プロフィール>
平岡 いづみ(ひらおか いづみ)/サグリ株式会社 管理部 人事責任者
大学卒業後、大手食品会社に総合職として入社。その後、人材ベンチャー企業のオフィス立ち上げの何でも屋として活躍。2006年からリクルートエージェントへ入社し、法人向け採用支援、キャリアアドバイザー、企画スタッフを経験。その間、2度の産休育休を取得し共に復帰。リクルートエージェント卒業後は、複数のベンチャー企業で人事等を経て、現在はサグリ株式会社で人事や広報を担っている。HRパーソンのコミュニティに参加しているほか、自身で運営も行っている。
目次
楽しく働きながら成果を出し続けるチームを増やしたいと、人事への転身を決意
──まずは、平岡さんのこれまでのキャリアからお伺いできますでしょうか。
2006年10月にリクルートエージェント(現:リクルート)に入社し、最初は新設拠点の立ち上げメンバーとして法人営業をしていました。2年ほど経って、社内異動で新規事業の事業企画となり、市場分析や営業戦略立案などを担当。それからその新規事業の法人営業、キャリアアドバイザーなどを経験してから1回目の産休を取得しました。
復帰後は、中途領域の経験者採用を支援するエージェントの法人営業として働いていましたが、しばらくして2回目の産休を取得し、再び復帰してからも法人営業として勤務していました。こうやって約9年にわたり幅広い業務を経験させてもらった後、2015年に卒業しました。
──卒業後はどういったキャリアを歩まれたのでしょうか。
その後、やっぱり企業の人事になりたいと転職を決意。ベンチャー企業の人事として約半年で複数名の経験者採用を成功させたほか、衛生管理者資格も持っていたので労務業務も経験しました。それからWebマーケティング会社へと転職し、給与計算から採用、研修、新卒採用の立ち上げ、評価制度の切り替えなど人事領域の業務を幅広く担当しました。その後ITベンチャーへ人事マネージャーとして転職し、同じように人事全般やインナーコミュニケーションを担当し最終的には人事本部長を務めていました。それからITコンサルティング会社を経て、サグリに入社しました。
本格的に人事のキャリアを歩んでいこうと考えたのは、リクルート時代の経験がきっかけです。リクルートはもちろん素晴らしい会社なんですが、さまざまな部署を経験する中でチームのタイプもいろいろあると感じました。みんな楽しそうで成果が出続けているチーム、成果は出ているけど大変そうなチーム、みんな疲れていて成果もなかなか出ていないチーム…これらを見てきて、全員が楽しく働きながら成果を出し続けられるチームを増やしたいなと考えるようになり、人事になることを決心したんです。その中でも大手企業の一部門より、ベンチャー企業のほうが人事全体が見えるだろうと今のキャリアを選択しました。
──現職ではどういった役割を担っているのでしょうか。また、人事としてのキャリアで学んできたことはどんなことでしょうか。
現在は人事責任者として人事業務全般のほか広報業務も担当しています。スタートアップのため、社会課題と真正面から向き合いたいと志の高い方が集まっています。一方で、彼らが安心して働けるバックオフィスの整備はまだまだこれからです。今後のさらなる成長に向け、そこを整えていくのが私の役割です。
リクルート以降のキャリアを振り返ると、所属した組織の社員が楽しく働きながら成果をあげられる組織づくりに取り組んできました。組織によって業務内容は異なりますが、持続的に発展できるよう取り組んできました。そんな役割を担うからこそ、組織を選ぶ際には、経営陣を含めその会社の事業にどれだけ共感できるか、自分がどれだけ役に立てるかを選択するうえでの大きな軸としています。
一人だけで頑張るのではなく、周囲を巻き込みながら成果を出すスタイルへの転換
──ここからは、これまでのキャリアで印象に残っている出来事をお伺いしていきます。
私のキャリアの考え方に影響した出来事は、大きく二つあります。一つ目はリクルート時代に産休から復帰し、仕事にフルコミットしていた状態から1年ほどのブランクがあったときです。子どもができて“時間制限あり”の働き方に変わった中でも成果を上げ続けなければならない環境に置かれたときは大きな変化だと感じました。
当時配属されたのが、私を含む全員が同時期に産休から復帰したママさんだけのチーム。私が一番年上で、入社3年目の若手もいるなど年代もバラバラ。一方で、担当するのは難易度の高いクライアント企業ばかり。そんな状況で、産休前の私は社内で何度もMVPを受賞するなどプライドもあったので、自分が引っ張らなきゃいけない、昔のようにフルコミットで働いて達成しなくちゃいけないと考えていたんです。
ところが私の子どもが毎週発熱したりで、週の半分くらいしか勤務できない状況が続いてしまって。目標数字もチームで一番高かったので、業績面で引っ張らないとというプレッシャーと、子どもを守れるのは自分だけだという責任感の間で苦しさを感じていました。
──なかなか大変な状況だったんですね。そこをどのように乗り越えたのでしょうか。
ママさんチームができて半年ほど経ったとき、チームみんなで、子どもを連れて合宿することになりました。当時のリクルートには強い女性が多く在籍していましたが、私たちはそうじゃない。半年ほど個人の頑張りで達成を目指してきたけど、今後はチームで力を合わせて勝とう。そうやって私たちが成果を出せれば、私たちの次に復帰してくるママさんたちの希望になれるんじゃないか。合宿でそう話し合って以降、働き方をガラリと変えることにしました。
一人ひとりのスケジュールはもちろん、各自が持っていた情報もすべて共有。誰かがお子さんの発熱などで休んでも、みんなでカバーし合えるようにしました。チームでスピードを落とさず取り組めるようにしたことで、メンバー全員が目標を達成でき、復帰からちょうど1年のタイミングで全社表彰をいただいたんです。リーダーだからと自分一人で全て抱えないことが重要だと感じましたし、チームで達成する楽しさにも気づけました。
──これまでと働き方をガラリと変えたことで、新しいやりがいに気づいたわけですね。もう一つ印象に残った出来事はどんなものでしょうか。
IT企業で人事責任者をしていたときです。その会社ではミッション、ビジョン、バリューが制定されていたものの、なかなか浸透していないという課題がありました。社内でサーベイを実施しても、活躍社員こそ働く意味を感じながら働きたいというデータが出ていたんです。
自分のパーパスと会社のパーパスとの重なりを感じながら働くことで、仕事に対する意味ややりがいが高まり、それによって個々のパフォーマンスも上がり、会社の成長にもつながるのではないかと考えました。そこで役員へ「パーパスをみんなで考えましょう」と提案したところ、全社員が集まるミーティングで私から改めて発信する機会を得ました。
そして改めて感じたのが、「一緒に考えること」が働く意味を共有するうえでとても大切なのではないかということ。そこで私はミーティングで「パーパスをみんなで考えましょう」と呼びかけ、有志を募ってパーパス策定委員会を立ち上げることにしました。実際にさまざまな部署のメンバーが参加してくれたことで、私自身もより深く「パーパス」に向き合えるようになり、組織全体での共通理解が少しずつ醸成されていくのを感じています。
社外の私のつながりからゲストも招き、レクチャーもしてもらいながらみんなで議論してパーパスをつくっていきました。策定後は会社のパーパスと自分のパーパスの重なりワークも実施するなど、いかに自分事にできるかを大切にしました。
結果、エンゲージメントの数値なども上がりましたし、パーパスに共感して入社してくれる方も増えていきました。みんなで作り上げ、そこに共感してくれる方が増え、元気に働く人が増えていったのはすごく嬉しかったです。この経験を通じて、これこそが私のやりたかった、みんなで楽しく働きながら成果を出すことなのかなと考えるようになりました。自分が自分がとなるのではなく、周囲を巻き込んでいくことを考えるようになりました。

自然体でフラットに取り組み、目の前にいる人の「自分にはない良さ」を見つけていく
──印象に残っている出来事をはじめ、これまでのキャリアから学んだことはどんなことでしょうか。
事業や組織を成長させるために「こうせねばならない」という枠組みをできるだけ外し、目の前にいる人と向き合う意識はかなり強くなったと思います。以前は成果を出すための枠組みや、成功確率が高い仕組みに当てはめがちだったのですが、さまざまな経験を積む中で、より自然体でフラットに取り組めるようになりました。
自分一人ではできることに限界がある。目の前にいる人が自分にはない良さを持っている。そこが出発点で、自分にはない強みを持っている人がいたら、「すごいですね!私にないところなので、ぜひ助けてほしいんです」と素直に伝えられるようになりました。私はキャリアコンサルタントの資格も持っていますが、相手の強みを見つけ、それをフラットに受け止められるようになったのは自分としても発見でした。
──産休から復帰した際、「自分一人で頑張るのは難しい」と感じた経験がその後につながったわけですね。その他の気づきとしてはいかがでしょうか。
周りを頼る、周囲を巻き込むという点では、社外のつながりもうまく活用できるようになったと感じています。きっかけとしては、過去に労務を初めて担当することになったとき、よく分からないぞと勉強のために社外のコミュニティに足を運んでいたんですね。
そこで感じたのが「世の中にはすごい人たちがいっぱいいて、自分はまだまだだ」ということ。そこからマネジメントスクールや他のコミュニティにも参加するようにしたところ、徐々に横のつながりができ、また新しいコミュニティを紹介してもらったりしていったんです。今ではコミュニティで10ヶ所ほどでしょうか。自分が代表をしたり、所属だけしていたりと参加の仕方はさまざまですが、そういったつながりから学んだことが本業で活かせたりと好循環が生まれています。
──本業のみならず社外活動にも参加し、家事や子育てとも両立してと24時間では全然足りなさそうですが、バランスはどのように取っているのでしょうか。
まずは、優先順位を明確に決めました。私じゃないとできないことは何か。子どもたちの母であることは私にしかできないので、子どもの命を第一優先と決めました。仕事については、周りに優秀な方がたくさんいるので助け合えますから。
それに加え、「何をしないのか」「何を捨てるのか」も大事にしています。目の前の仕事を分類していくと、「やったほうがいいけど、やらなくてもいいこと」がたくさん出てきます。そこについては本当にやらなくなったというか、優先順位付けをするときも「何をやるか」ではなく「何をやらないか」から考えるようになりました。
何のためにやるのか?社会にどう役立つのか?を共有しつつ、お互いの違いを楽しむこと

──最後に、今後のキャリア展望を教えていただけますでしょうか。
仕事の成果も出しつつ、楽しく働くことを大事にしていきたいです。子どもたちは一番に親の姿を見ていますので、自分が楽しく人生を生きているところを見せていくこと。子どものために我慢をしている感じって、子どもに何かを乗せている気がして好きじゃないんです。
楽しく生きてるよ、大人って楽しいよ、という姿を見せたいなと思ってきたからか、二人の子どもにも何かしらその想いは伝わっているようです。上の子どもからは「お母さんって友だち多いよね」「いつも楽しそうだけど、本当に仕事してるの?笑」と言われたこともありました。下の子どもは「私、将来はママみたいになりたいんだけど」って言ってくれたことがあったんですが、そのときは撃ち抜かれたような気持ちになったのを覚えています。
──これまでの経験から、みんなが楽しく働きながら成果を出し続けられるチームをつくっていくために大事なことはどんなことだとお考えでしょうか。
意識しているのは二点です。一点目は、何のためにやるのか?それが社会にとってどのように役立つのか?そういった目的や目標をみんなで共有するところから始めることです。
そして二点目が、お互いの違いを楽しむこと。自分と相手の意見が違うのは当たり前ですが、違うからと否定してばかりいたら、目標も結局達成できませんし、心も疲れてしまいます。そうではなく、宝探しのように相手の良いところを発見し、得意なところを任せるなどして協力して進めていく。そんな関係性を築ければ、みんな楽しく働けるんじゃないでしょうか。
──今後どのように働いていきたいとお考えですか。
人事の仕事は自分にもしっくり来ているというか、ずっと続けたい仕事だと考えています。働き方で言えば、自分自身が常に変化をしながら、誰かの役に立っていきたいです。それがもしかすると1社の人事で得られるかもしれませんし、勉強会やコミュニティでシェアすることで得られるものかもしれません。逆にシェアしてもらった知識やスキルによって自分が変化し、別の誰かに役立てる機会も出てくるでしょう。
こうしたサイクルをずっと続けながら、自分を停滞させず、変化して成長していければと思います。「こうあらねば」という枠組みにとらわれず、自分が一番役に立てる場所や状況をつくりだしていきたいですね。
編集後記
自分と同じ24時間を過ごしているのだろうか。そう感じてしまうくらいアクティブに行動されている平岡さんですが、悲壮感は一切なく、とても楽しみながら働いていると感じました。そのためにも大切だと感じたのが、「やらないことを決めること」と「相手との違いを楽しむこと」。成果にこだわろうとする気持ちが強くなると、ついつい成功パターンに固執してしまうこともあるかもしれませんが、平岡さんのように自然体でフラットに取り組むのが良いのだろうと感じた取材でした。