「プロ人材」の力を最大限に引き出すために、受け入れ企業が知っておきたいこと

副業・複業形態で働く方の拡大とともに耳にする機会が増えた言葉「プロ人材」。私たちのサービスCORNERにも多くの人事領域における多くの「プロ人材」の方々にご登録いただいております。
今回は、ご自身も「プロ人材」として活躍されている皆川 麻理江さんに、「プロ人材」の定義から企業が活用したいときの方法・事例にいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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皆川 麻理江(みながわ まりえ)/法人代表
株式会社日経BP社におけるデジタル雑誌およびIT系全般の記者として企画・執筆・編集業務からキャリアをスタート。教育系ベンチャーの株式会社トモノカイに転職、大学生の面接および求人記事の作成や学校との橋渡しを担当。「もっと人材業界を極めたい」と考え、人事・採用コンサルティングを行う株式会社トライアンフに入社。某大手メディア企業の人事部に出向し中途採用人事業務に従事、PROサービスの仕組み作りに携わる。その後、新卒採用コンサルティングを行う株式会社リアライブにて新卒のキャリアアドバイザー、株式会社サーキュレーションにてエグゼクティブ人材へのインタビューの傍ら、個人的に複数の企業で採用支援を開始。2017 年に独立し、株式会社アップターンとサイヨウレター合同会社の2社の法人を設立。採用コンサルティングや採用アウトソーシングなどの提供を通じてさまざまな企業の人事・採用を支援している。
目次
「プロ人材」の定義
──「プロ人材」の定義について、一般的な広義なものと皆川さんが考えるもの、それぞれについて教えてください。
「プロ人材」とは、特定の分野で高度な専門知識やスキルを持つ経験豊富な専門家を指すことが一般的です。一方で、私はより具体的に以下のように定義しています。
『対象分野について自ら体験した経験から高い勘所と手段を持ち、高確率で顧客の課題解決を成功させることはもちろん、過去の経験に捉われず顧客視点に立って実践を続けている人』
もう少し詳細に私が考える「プロ人材」の定義について補足します。以下3点に該当する方こそが、本質的な意味での「プロ人材」に該当すると考えています。
(1)自分も動き続け、課題解決を一緒に行うマインドを持っていること
プロジェクトの内容にもよりますが、常にハンズオンで顧客企業に関わり続けるマインドを持ち続けないと、現場や現実に即したアドバイスやフォローは難しくなってしまいます。企業や担当者が「プロ人材」に頼るのは、『分からない・苦手・より良い解決策が知りたい・なんとかしたい・自分たちでもできるようになりたい』などの想いがあり、顧客規模や特性に応じて課題は十社十色なので、その希望を叶えたり課題を解決するためには顧客と同じ視点や立ち位置で関わることや、状況に応じて『やってみせる』『一緒にやって覚えてもらう』といったスタンスが重要になることも多いと思います。もちろん、プロジェクトの内容や企業の要望によっては手を動かす必要がないケースもありますが、その場合も顧客視点に立つことが必要だと考えます。
(2)お客様の視点になり理解するマインド
これは『自分が所属する会社』としてのマインドで支援ができる人を指します。その業界のプロであるのがお客様。そのプロに対してお手伝いをさせていただくわけですから、業界の作法や仕組み・社風・取引先・予算などありとあらゆることについて興味を持って調べ、分からないことはお客様に聞きまわるくらいの気概がなければいけません。その上で、お客様先の従業員になりきるくらいのマインドで任されたプロジェクトに深くのめり込むことが「プロ人材」として成果を出す最大の近道です。
(3)柔軟性と逆算思考で問題解決に邁進できること
自身の得意領域や専門領域があるからこその「プロ人材」ではありますが、本当の「プロ人材」はセオリーや過去の成功事例に捉われることなく、あらゆる事例・事象を掛け合わせて最適な解決策を導き出すことが求められると思います。特に、プロジェクトが壁にぶつかったときにプロセスと乗り越え方のヒントを顧客に提示することで問題解決に導けるかどうかは、「プロ人材」としての腕の見せ所とも言えます。
内閣府が推進する『プロフェッショナル人材事業』とは
──行政も「プロ人材」の発展や活用を推進していると聞きました。どのような動きがあるのか教えてください。
内閣府が推進している『プロフェッショナル人材事業』についてご紹介します。この『プロフェッショナル人材事業』は2016年1月から本格的に稼働した事業で、東京都以外の全都道府県にプロフェッショナル人材拠点を設置し、潜在成長力のある地域企業・団体などに対して「プロ人材」のマッチングをサポートするというものです。マッチングするミッションの領域は経営サポート、新規事業立ち上げ、販路開拓、生産性向上などの支援がメインとなっていますが、「プロ人材」の定義としては上記で解説したものとほぼ同じだと思います。
この『プロフェッショナル人材事業』の推進により、地方自治体・地域企業・団体などにとっては、以下のような効果が期待できます。
■専門的な知識と経験の提供
地方自治体や地方企業が専門的なスキルを持った「プロ人材」を活用することで、問題解決や業務の効率化、改革に必要な知識と経験を得ることができます。
■課題解決の加速
地方の独自課題(人口減少、産業振興、地域活性化など)に対して即戦力である「プロ人材」が関わることで、効果的かつ迅速に解決策を実行することが可能になります。
■外部視点による革新
外部から来た「プロ人材」は、地域や企業の内部事情に捉われず新しい視点や手法を提供し、既存のやり方を見直すきっかけを与えることができます。
■地域活性化や経済成長の支援
「プロ人材」が地域に関わることで、地域経済の発展や産業の強化、雇用創出などの効果が期待でき、結果的に地域全体の活性化に寄与します。
■ネットワークの拡大
広範な業界や地域での経験を持っている「プロ人材」(またはそれらの人脈を保有した人)であれば、地方自治体や企業はそのネットワークを活用して新たなパートナーシップやビジネスチャンスを創出することができます。
このような行政の推進活動と同時期に民間企業での副業・兼業人材の活用をするためのプラットフォームが増加したことにより、各企業でプロ人材を活用しやすくなりました。
企業が「プロ人材」の導入前に検討すべきポイント

──企業が自社に「プロ人材」を導入しようと考えた時に、どのようなことを検討しておけば良いでしょうか。
まずやるべきことは、「プロ人材」に求めるものを明確にしておくことです。例えば業務のリソース不足のカバーをしてほしいのか、問題解決や今後起こりうる課題を事前・未然に解決したいのかなどの目的を整理すると良いでしょう。目的を明確にすることで、その目的に対してどのような「プロ人材」に依頼をすべきかが見えてくるからです。例えば以下のようなことが考えられます。
■自社のリソース不足のカバー
・採用活動や特定の作業を行えるマンパワーが足りないので、該当業務を対応して欲しい
・自社にその問題に向き合った経験がある方がいなくなってしまったので、どうしたらいいかわからないので代わりに対応して欲しい
など
■専門的知見を基にした問題解決
・喫緊の課題があり自社の社員だけでは賄いきれないので、最速で問題解決をするためにサポートして欲しい
・今後起こりうる課題が想定できているが、それを未然に防ぐための方法や対策を考えて欲しい
など
■外部視点を取り入れたアドバイスや伴走
・既に自社で考えやアイデアがあるものの、外部の視点を取り入れたいので、相談しながらプロジェクトを一緒に進めて欲しい
・問題解決の過程に一緒に取り組んでもらい、その中で「プロ人材」の専門性から学びたい
など
「プロ人材」に求めるものや目的を明確にした後に重要なのは、お任せしたいプロジェクトの目指すゴール(理想の姿)と現状の課題点、関わる社内メンバーのリテラシーやスキル、そこから考えられる、プロジェクト成功に向けて足りないスキルや専門性などを洗い出し、把握することです。これは言わば「プロ人材」導入前の『要件定義』を行う上でも重要になる部分であり、ここの解像度を上げることで、よりマッチした「プロ人材」へ依頼することができるようになります。
もう1つ、忘れてはいけないことが、自分たちにも一定の負荷が掛かることを理解しておくことです。よく『「プロ人材」にお願いしたのだから、あとは任せておけば全部やってくれる』というスタンスで、『丸投げ』のような状態で発注されている企業や担当者を目にするのですが、そのようなスタンスでは、優秀な「プロ人材」でも成果を残すことは難しくなってしまいます。「プロ人材」はハンズオンで現場と一緒に汗をかきながらプロジェクトを成功に導く存在ですので、時間的・物理的な工数が必要になることはもちろん、外からの知見を取り入れる事により、これまで行ったことのない業務を行う必要がでてきたり、難易度が上がることも予想されます。そのことについて認識をし、ある種の覚悟を持って受け入れる必要があるのです。

「プロ人材」の活用ケース
──「プロ人材」は特にどのような場面やケースで活用ができるものなのでしょうか。
「プロ人材」の活用が効果的なケースとしては、大きく以下の4つがあります。
(1)初めて取り組む・試みるとき
新規事業や新規商材の取り扱いを始めた場合などが該当します。例えば以下のような場面です。
・初めて海外進出をする
・小売事業のみを行っていたが、製造事業に拡大をする
・対面販売のみを行っていたが、ECの開設・展開をする
・M&Aをする
・初めて新卒採用を実施する
・新規事業や新規部署創設に伴う領域特化人材の中途採用をスタートさせる
など
(2)従来の取り組みに突破口を見出したいとき
既に自社で取り組んでいる業務やプロジェクトがあり、随時改善などを行ってきたものの、結果に満足ができず行き詰まっている場合などが該当します。例えば以下のような場面です。
・製造現場での生産性向上を目指しているが歩留まってしまい、なかなか改善ができていない
・販促マーケティングを強化したい
・営業促進などビジネス拡大のための販路を開拓したい
・採用において母集団形成がうまくできず苦労している
・内定承諾後の辞退が多く改善したい
・採用広報の必要性を感じているが始め方が分からない
など
(3)最速で結果を出したいとき
マンパワーや必要な専門性を有する人材が自社に不足しており、コストは確保できるものの、とにかく目の前の課題に対してすぐに結果が必要な緊急性の高い場合が該当します。例えば以下のような場面です。
・コスト削減のためにも社内のDX化を実現しなくてはならない
・人事制度の更新やリニューアル対応が必要になった
・緊急性の高いエグゼクティブや幹部クラスの採用をしなくてはならない
・大量離職が予測されているがそれに向けての対処が必要になった
など
(4)大きな変革を起こそうとしているとき
組織で大きな変革を起こそうと広範囲に渡るプロジェクトが複数進行している場合などが該当します。例えば以下のような場面です。
・組織改革のために全社一丸となってのプロジェクトを推進しているとき
・社長が交代したタイミングでの全社的な社内改革
・ベンチャー企業がビジネス拡大のために資金調達や大規模な採用を実施する
・人事機能がないスタートアップ企業などにおいて人事部の立ち上げや組織拡大をする
など
「プロ人材」の成果を最大化するために
──「プロ人材」を活用し、成果を最大化させるためにはどのような点を重視すると良いでしょうか。
前述した通り、「プロ人材」は依頼主である企業とハンズオンで現場と一緒に汗をかきながらプロジェクトを成功に導く存在ですので、企業と「プロ人材」がしっかりとコミュニケーションを取り、キャッチボールができることが重要です。
具体的には、『「プロ人材」が動きやすい環境や体制を作ること』『スピード感を持った意思決定ができる状況を作ること』が大事だと私は思います。
「プロ人材」を導入する時には、担当するプロジェクトに必要な予算の確保はもちろん、該当部署だけではなく周辺部署の社員にも協力を仰いだり、可能な範囲での社内情報を開示する用意をするなど、「プロ人材」が自由に動ける環境を用意してあげると良いでしょう。
また、「プロ人材」からのアドバイスによりこれまでに検討してこなかった件についての決断をする必要がでてくることもあると思いますが、そういった時の意思決定に時間がかかってしまうと、機を逃してしまったり「プロ人材」の活用期間が不要に延びてしまう可能性も出てきてしまいます。なるべく早く決められた期間内にプロジェクトを完了させるためにも、適切な意思決定者とのコミュニケーションができ、その方にスピード感を持って決裁していただけるような体制も事前に整えておけると良いと思います。
そして、「プロ人材」は当然ながらいつまでも組織に在籍してくれるわけではありません。プロジェクト期間や求められた成果を出し終えれば、その組織からはいずれ離れて行ってしまいます。そうした存在であることを改めて認識した上で、「プロ人材」の在籍期間中にその方が持つ知見やノウハウをどれだけ会社や担当部門・担当者にインプリンティング(刷り込み)して組織力を高められるかも大きなポイントです。
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編集後記
「プロ人材」の言葉だけを聞くと、『どんな難しいことでも魔法のように解決してくれる存在』というイメージを持つ方も少なくないかもしれません。確かに、豊富な知見やノウハウをお持ちであり、複雑な問題にも向き合ってもらえる心強い存在であることには間違いありません。しかし、皆川さんも言う通り「プロ人材」活用で成果を出せるかどうかは、受け入れ側である企業側のスタンスや準備がモノを言います。丸投げにせず、一緒に取り組み、「プロ人材」からできるかぎり学ぶ──そうしたアグレッシブな姿勢を忘れずに活用していきたいものです。