「転勤廃止」で変わる転勤制度。見直される理由と従業員への影響
従来の日本企業では比較的一般的に実施されてきた転勤ですが、近年では転勤を命じられることによる従業員側の負担軽減などを理由に、大手企業を中心に転勤を廃止する動きが見られます。この「転勤廃止」によってどういった影響が従業員や企業にあるのでしょうか。
今回は、株式会社ベネッセコーポレーションにて事業本部専任のHRBPを担う磯野 篤紀さんに、「転勤廃止」を検討する企業が増えている背景から従業員への影響にいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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磯野 篤紀(いその あつのり)/株式会社ベネッセコーポレーション 事業戦略部
大学卒業後、中小事業会社2社(飲食・販売、IT)の人事総務担当として労務管理を中心に採用・総務・社内報など、人事・総務領域全般を幅広く従事。その後ヤフー株式会社に転じ、労務(給与厚生)、人材育成、組織開発、HRBP、大阪拠点人事総務責任者を経て2020年11月から200名規模のIT企業の人事マネジャーを務め、現在はベネッセにて事業本部専任のHRBPを担う。労務(給与厚生)、人材育成、組織開発、組織活性、HRBPを幅広く経験。研修プログラム作成から研修講師を務め、特に1on1導入、浸透、向上施策の企画が強み。ワークショップデザイナー、(一財)生涯学習開発財団認定プロフェッショナルコーチ、日本陸上競技連盟公認ジュニアコーチ。
目次
「転勤廃止」する企業が増えている理由
──近年、大手企業を中心に「転勤廃止」や見直しについて耳にします。その背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
日本企業において転勤は人材育成・組織活性化・適材適所を目的に行われてきました。一方で従業員にとっては転勤は生活面での負担が大きく、特に配偶者の転職や子どもの転校などが発生するため、これまでも課題視されていたところもありましたが、一定受容せざるを得ないものとして認識されていた印象です。
しかし最近では、仕事と家庭の両立、家族との時間の確保、個人の健康維持といった従業員のウェルビーイングの観点から、転勤や単身赴任を『時代遅れなのではないか』と考える企業も増えています。従業員側において働き方や志向性の多様化を受けてワークライフバランス重視の傾向が強まってきていることも、企業側の態度変容の一端となっています。つまり、採用や人材定着の観点などから転勤は『潜在的なリスク』として捉えられ始められているということです。
<転勤の状況と転勤の目的>
正社員(総合職)の転勤(転居を伴う配置転換)がどのくらいあるかについては、「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」が33.7%、「正社員(総合職)でも転勤をする者の範囲は限られている」が27.5%、「転勤はほとんどない(転勤が必要な事業所がない)」が27.1%となっている。
「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」の割合は、正社員規模が大きくなるほど、拠点数が多くなるほど、高くなる。
転勤の目的は、「社員の人材育成」が66.4%ともっとも多く、次いで、「社員の処遇・適材適所」(57.1%)、「組織運営上の人事ローテーションの結果」(53.4%)、「組織の活性化・社員への刺激」(50.6%)、「事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充」(42.9%)、「幹部の選抜・育成」(41.2%)、「組織としての一体化・連携の強化」(32.5%)など。
※引用:『企業における転勤の実態に関する調査』JILPT
──「転勤廃止」や見直しについて、推移や実態について詳しく教えてください。
JILPT(独立行政法人労働政策研究・研修機構)が2017年に発表した『企業における転勤の実態に関する調査』によると、『正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある』と回答した企業は33.7%にも上りました。企業規模が大きくなるほど転勤の可能性が高まっており、正社員規模が1000名以上の企業は50.9%にもなっています。
また、JILPTは『転勤に関する個人Web調査』も行い、転勤の効果などについて探っています。転勤後に職業能力が向上したと感じる人は国内転勤者で51.2%、海外転勤者では76.2%と高い結果でした。
一方で、転勤免除を求めた人は20.5%と一定数おり、その理由には『親の介護』や『子の就学・受験』が多く挙げられています。こうした転勤免除を求める声は、今後より増えていくと予想しています。その理由はいくつかありますが、大きなものはテクノロジーの進展とダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の促進の観点です。
近年はリモートワークやテレワークが普及したことにより、物理的な勤務地に縛られない働き方が可能となりました。それに伴い、従業員自身の勤務地や転勤に対する価値観も大きく変化してきています。特に、以下のような傾向があると考えています。
(1)生活基盤の重視
子どもの教育環境や親の介護など、生活における特定地域への依存は昔から根強くありますが、従来の日本ではそれらよりも仕事を優先せざるを得ない環境がありました。それがリモートワークの普及などにより両立しやすくなったことを受け、転勤によってこうした基盤が揺らぐことへの抵抗感が増していると考えています。
(2)自己決定権への意識の高まり
仕事に関する意思決定において、従業員が自分のライフスタイルや価値観を反映させたいという意識が強まっていると感じます。どこで働くかの選択が自分自身の人生をデザインする一環と考えられるようになり、企業による一方的な転勤命令への受容度が低下している印象です。
(3)キャリアビジョンとの適合性
転勤が自分のキャリアにどのように寄与するのかが明確でなければ、従業員も納得しにくい時代になってきたと感じています。特に、若い世代では『成長実感が得られるか』『スキルの幅が広がるか』などの具体的なメリットを重視する傾向があります。
(4)地域に根差した生活やコミュニティの価値
都市部から地方への移住が注目される中、『特定地域での生活を大切にしたい』と考える従業員も増えてきた印象です。転勤によって築いた人間関係や地域コミュニティを手放すことを懸念する声もよく聞かれます。
こうした従業員側の価値観の変化は、リモートワークの進展や社会全体の多様性の尊重と相まって、転勤の必要性やあり方を企業が再検討する重要な背景となっています。このような価値観の変化を企業がどれだけ理解し、柔軟に対応できるかが、今後の人材戦略における鍵になるのではないでしょうか。
<合わせて読みたい>
~経営戦略としての「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」とは~
「転勤廃止」によるメリット・デメリット
──「転勤廃止」によるメリットやデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
「転勤廃止」には、ワークライフバランス実現や地域密着型戦略の強化などのメリットがある一方で、キャリア育成・組織活性化・業務運営において課題が生じる可能性があるなどのデメリットもあります。企業はこれらの利点と課題を十分理解した上で従業員ニーズと企業成長戦略のバランスを取る慎重な判断が求められるだけでなく、柔軟な運用や段階的導入の検討も重要になってきます。
ちなみに、「転勤廃止」によるメリットとデメリットにはそれぞれ以下のようなものがあります。
■メリット
・ワークライフバランスの向上
従業員が特定地域で生活基盤を築くことで育児や介護と仕事の両立などが容易になり、定着率や離職率の低下が期待できます。
・採用の多様化
地域に根ざして働きたい人材の採用がしやすくなり、応募者数の増加が見込めます。また、地域特性や地元志向を持つ人材にとっても魅力的な企業となりやすいです。
・地域密着型戦略の強化
地域に精通した従業員が長期的に業務に関与できるため、地域特性を活かした事業展開や関係構築が進めやすくなり、地域密着型のビジネス戦略強化が期待できます。
・コスト削減
転勤や単身赴任にかかる費用が削減され、コスト効率の向上が期待できます。
■デメリット
・社員の成長機会の減少や制限
異なる地域や部署での経験機会が減少することにより、多様なスキルや視野の拡張が制限される可能性があります。特に、幹部候補やリーダーシップを担う人材の育成に影響が出ることが予想されるため、キャリア開発機会を補完する方法が必要です。
・組織の硬直化
各拠点や部門で人材が固定化され、新しい視点や変革が生まれにくくなるリスクがあります。定期的な研修やプロジェクトベースの異動機会を提供することで、マンネリ化や組織の硬直化を防ぐ工夫が求められます。
・地域間の人材偏在
特定地域で必要な人材が不足しても他地域からの配置転換ができないため、業務運営に支障が出るリスクがあります。地域ごとの人材不足や業務負荷の偏りを解消するためには、採用活動の拡充やリモートワークの推進が重要となってきます。
・不正リスク
長期的な人間関係の固定化により、癒着や不正リスクが増加する可能性があります。よって、適切な管理や監査体制の強化が求められます。
・キャリアパスの制限
全国的な経験を必要とする役職への登用が難しくなる可能性があります。また、従業員の成長や昇進の機会が限定されるリスクもあるため、従来よりもさらに柔軟なキャリア設計が求められます。
「転勤廃止」を決断した企業
──実際に「転勤廃止」を実施・実行した企業について教えてください。
3社ほど大手企業の事例をご紹介します。
■NTTグループ
2025年までにテレワークを基本とし、転勤や単身赴任を原則廃止する方針を掲げています。この取り組みは、新型コロナウイルスの影響でテレワークが普及したことを契機としています。NTTの社長も転勤経験があることから、『従業員の負担を軽減し、多様な働き方を実現したい』という思いがありこの方針が導入されたようです。
2021年にもNTTは『職住近接』を促進し、ワークライフバランス向上を目的にグループ従業員の転勤や単身赴任の廃止を発表しました。この取り組みでは、従業員が希望する場所で働けるようにすることを目指し、リモートワークを活用しながら出張費支給などで業務と生活の両立を図っています。
■AIG損害保険
2019年春に『従業員が望まない転勤』を廃止し、希望するエリアで勤務できる『転勤希望制度』を導入しました。これは従業員アンケートで約6割が勤務地の選択権を希望した結果に基づいており、ライフステージに合わせた柔軟な働き方を支援するものとして実施されています。これにより、従業員が家族やコミュニティとのつながりを保ちながら働くことができる環境が整備されました。AIG損害保険はこの制度を通じて『The Best Place to Work』の実現を目指し、生産性や定着率向上も図っています。
■カルビー
2020年7月から『Calbee New Workstyle』を導入し、以下3つの柱を打ち立てる形で単身赴任を廃止しました。
(1)モバイルワークの標準化/オフィス勤務者は原則モバイルワークとし、必要な場合のみ出社。
(2)単身赴任の解除/業務に支障がない場合は単身赴任を解除。
(3)通勤費用の見直し/通勤定期券代を停止し、出社日数に応じて交通費を支給。モバイルワーク手当も新設。
なお、単身赴任を廃止した背景には以下2つがあります。
(1)生活の質向上/単身赴任による精神的負担を軽減し、従業員の幸福度を高める。
(2)人材の定着率向上/柔軟な働き方を提供することで、従業員の離職を減少させる。
これらの取り組みが進んだ背景には、リモートワークの普及と過去制度の進化(2014年から在宅勤務制度を導入し、2017年には条件を緩和したモバイルワーク制度を導入)があります。こうしてカルビーは働き方改革を徐々に進め、従業員がより快適に働ける環境を整えています。
「転勤廃止」を検討する際に考慮すべきポイント
──「転勤廃止」を検討する際に、人事としてどのような点に考慮・注意すべきでしょうか。
大きく以下5つの点に考慮・注意してください。
(1)人材配置と働く制度
「転勤廃止」により拠点ごとの人材ニーズに応じた配置が難しくなることから、特に専門人材の育成・配置が課題となります。それを解決するためにも、リモートワークや柔軟な働き方の導入などが求められることになるでしょう。
(2)キャリアパスと人材育成
「転勤廃止」に伴いジョブローテーションを通じた成長機会が減少し、従業員の多様なスキル開発が難しくなる可能性があります。特に、幹部候補やリーダーシップを担う人材の育成が課題となりやすいため、その代替としてキャリアパスの再設計や研修の充実が必要になってきます。
(3)地域間の賃金・待遇格差の是正
転勤を前提としていた待遇から、地域ごとの生活費差異に応じて待遇の見直しを行う必要があります。その際、都市部と地方で賃金格差が生まれる可能性が高いため、そこへの対処も求められます。ただ、必ずしもすべての企業が地域ごとに待遇を見直す必要があるわけではありません。企業の規模、業種、事業展開の状況、従業員の構成などによって適切なアプローチは異なるからです。自社の状況や従業員のニーズを慎重に分析し、公平性と競争力を両立させる待遇制度を設計することが求められます。
(4)組織の一体感やコミュニケーション状況
「転勤廃止」により異なる地域・拠点間の交流機会が減少することにより、組織全体の一体感や情報共有の低下が懸念されます。リモート交流、社内イベント、複数部門が横断するプロジェクトなどを通じて連携を強化する取り組みが求められます。
(5)労働市場での競争力
「転勤廃止」は転勤を避けたい人材には有利に働く一方で、多様な経験を重視する人材には魅力が低下する可能性があります。採用競争力を保つためには、柔軟な運用や段階的な導入、各役職に応じたキャリア設計が求められます。
なお、近年の傾向としては『転勤を避けたい人』が増加しています。マイナビ社が行った2024年卒大学生就職意識調査では、『転勤が多い会社に行きたくない』と回答した学生の割合は、2014年卒の18.7%から2024年卒では29.6%にまで増加しており、この10年間で転勤を避けたい傾向が強まっていることが分かります。また、パーソル総合研究所による転勤に関する定量調査によると、転勤制度がある会社への応募・入社を回避する割合は、就活生で50.8%、社会人(ホワイトカラー正社員)で49.7%と、約半数を占めています。特に、若年層・女性・ハイパフォーマー層で離職リスクが高くなっている点にも注目です。貴重な人材を採用したり離職を防いだりするためにも、これらの傾向を踏まえた対策が必要になってきます。具体的には、以下のような対策です。
・柔軟な転勤制度の導入……従業員が転勤の可否を選択できるシステムや、勤務地域を指定できる制度の導入を検討する
・テレワークの活用……テレワークを推進し、物理的な転勤を減らす方向性を検討する
・インセンティブの見直し……転勤を受け入れる従業員に対して、十分な手当てや昇進昇格などの明確なメリットを提供する
・転勤の必要性の再検討……事業上の都合と人材育成の観点から、真に必要な転勤を絞り込む
・多様なキャリアパスの提供……転勤を希望する従業員と避けたい従業員の両方に対応できるよう、複数のキャリアパスを用意する
・コミュニケーションの強化……転勤の目的や個人のキャリアへの影響について、従業員との対話を強化する
──「転勤廃止」を実施する上では人事制度の再設計が必要だと思いますが、どのような点に注意すると良いでしょうか。
何よりも重要なのは、中長期的な事業戦略と整合性が取れているかを確認することです。なぜなら、事業戦略と整合性が取れていれば組織全体の方向性と人事制度の間に一貫性を持たせて持続可能な成長を目指すことができるからです。
その上で、以下7つのポイントに注意して進めていきましょう。
(1)転勤の必要性の検証
まず、転勤そのものの必要性を検証することが重要です。
・転勤の目的を明確化する
・実態を把握し、効果を検証する
・真に必要な転勤を絞り込む
この過程で、テレワークの推進や完全移行により「転勤廃止」できる可能性も検討していきます。
(2)雇用区分の再設計
「転勤廃止」に伴い、雇用区分を再設計する必要があります。
・全国型社員と地域限定社員の区分/転勤の可能性がある社員と地域限定の社員を区分する
・職種別の区分/転勤が必要な職種と不要な職種を明確に分ける
・キャリアパスの設計/各区分におけるキャリアパスを明確にする
例えば、ニトリHDでは従業員が転勤の可否を選択できる制度を導入しています
※参考:『ワークライフバランスの推進:転勤なし・報酬の 減額なしの「マイエリア制度」を3⽉より導⼊』ニトリホールディングスプレス記事
(3)処遇制度の見直し
転勤の有無による処遇の差を再考する必要があります。
・給与体系の見直し/転勤の可能性がある従業員に対する適切な報酬設計
・手当の見直し/転勤手当や単身赴任手当の新設や増額の検討
・昇進・昇給制度の調整/転勤の有無による昇進・昇給への影響の再設計
ただし、転勤する人としない人の処遇差が大きすぎると不公平感が生じる可能性があるため、バランスを取ることが重要です。
(4)人材育成方針の再構築
転勤が人材育成の手段として機能していた場合、その代替策を検討する必要があります。
・ジョブローテーションの再設計/地域内での異動や短期派遣の活用
・研修制度の強化/オンライン研修や短期集中型研修の導入
・メンター制度の活用/異なる地域の社員間でのオンラインメンタリング
(5)コミュニケーション戦略
既存の従業員に対する丁寧なコミュニケーションが不可欠です。
・制度変更の理由と目的の説明/働き方改革の推進や人手不足への対応など
・個別面談の実施/社員の希望や懸念を聞き取る
・段階的な導入/急激な変更を避け、移行期間を設ける
(6)採用戦略の見直し
「転勤廃止」は採用にも影響を与えます。
・採用区分の見直し/地域限定採用の導入や拡大
・採用基準の調整/地域特性に合わせた採用基準の設定
・リクルーティング戦略の変更/地域密着型の採用活動の強化
(7)労務管理の再構築
「転勤廃止」に伴い、労務管理も見直す必要があります。
・就業規則の改定/転勤に関する規定の変更
・労働契約の見直し/勤務地や職務内容の明確化
・労使協議の実施/制度変更に関する労使間の合意形成
「転勤廃止」が既存従業員に及ぼす影響とその対処方法
──「転勤廃止」は既存の従業員にも影響があると思いますが、それらにはどのように対処していくべきでしょうか。
「転勤廃止」をすることによって、社員に対してはさまざまな影響があると思います。具体的には、手当などの待遇の変更、キャリアパスの変更などです。
「転勤廃止」を実施する際には、既存従業員への影響も慎重に考慮して適切な対応策を講じることが重要です。以下に、既存従業員の待遇変更に関する設計・実施と社内コミュニケーションのポイントをご説明します。
<既存従業員の待遇変更への配慮>
「転勤廃止」に伴い既存従業員の待遇に変更が生じる場合、以下のポイントに注意して対応を検討します。
■既存の待遇の見直し
転勤中の従業員にとっては、転勤に伴う手当や支援が生活の一部となっている場合があります。例えば、家賃補助や転勤手当、家族のサポートなどが「転勤廃止」によって減額されることがないよう段階的な調整や新しい制度(勤務地限定制度や通勤補助など)を検討しましょう。また、転勤中の従業員には現在の待遇を一定期間維持するなどの移行措置を取ることで、安心して生活を続けられるよう配慮することが必要です。
加えて、転勤経験のある方とそうでない方の間で不公平感が生じないよう、待遇の調整を慎重に行います。例えば、転勤手当や住宅手当などの見直しを行う場合には、段階的な移行期間を設けるなど急激な変更を避けます。
■キャリアパスの再設計
転勤を前提としていたキャリアパスを見直し、新たなキャリア開発の機会を提供します。具体的には、社内公募制度や部門間異動の促進など、多様なキャリア形成の選択肢を用意します。
■柔軟な働き方の導入
リモートワークやフレックスタイム制度など、柔軟な働き方を導入して転勤に代わる新たな価値を提供します。例えば、勤務地限定社員と全国転勤社員の区分を設け、従業員が自身のライフスタイルに合わせて選択できるようにするなどがあります。
<社内コミュニケーションの設計>
「転勤廃止」に伴う社内コミュニケーションには、透明性と公平性を確保しつつ、既存従業員の不安を軽減することが求められます。
■情報共有の徹底
「転勤廃止」の理由や目的を明確に説明し、全従業員に対して丁寧に情報を共有します。その際、変更スケジュールや移行期間についても具体的に提示し、予見可能性を高めます。
■双方向コミュニケーションの確立
従業員からの質問や懸念に対応するための窓口を設置します。定期的な説明会や個別面談も合わせて実施し、従業員の声に耳を傾ける機会を設けます。
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編集後記
終身雇用が前提の組織で総合職として働いていた方であれば、一定の転勤は仕方なしとして受け入れてきた過去があるかもしれません。しかし、時代の変化を受けて転勤に対するイメージや受け止め方も大きく変わってきています。組織側の都合だけでなく、個人側の都合も踏まえて転勤の在り方を考えていきたいものです。