組織の進化を支える人事力。グローバルな経験がもたらす視野の広さ
自動車部品メーカーの人事部門で、国内勤務・海外勤務を約15年間経験した山口さん。イタリアでの勤務では、現地法人の経営立て直しにも尽力しました。その後、新たな活躍の場を求めて、高級輸入車のインポーターにマネージャーとして入社。チェンジマネジメント、人事制度改定、早期退職プログラムの企画・実行など、人事領域に関する幅広い役割を担ってきました。
そして現在は、プロフェッショナルファームで管理業務の効率化や品質向上に取り組みつつ、パラレルワーカーとしてヘルスケア業界の労務BPR(業務改善)などに取り組んでいます。国内外での勤務、そして人事に関わる幅広い業務を手掛けた豊富な経験を、どのように現在の仕事に活かしているのか。パラレルワーカーとしての強みなどを伺いました。
<プロフィール>
山口 慎二郎(やまぐち しんじろう)
メーカーの人事部門に所属し、国内・海外人事業務全般、アメリカ・イタリアでの勤務を経験。2社目のドイツ車のインポーターでは、人事総務部の準責任者として、ドイツ本社とともに人事諸制度の改定プロジェクトなどを手掛ける。転職後、プロフェッショナルファームではシニアマネージャーを務め、労務管理の統括、組織変革、人材開発業務などを担う。その一方でパラレルワーカーとして、医薬品関連企業の人事BPR、HR-IS導入などのコンサルも手掛ける。
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過去監修記事:「企業防災」に取り組むべき理由と対応方法について
目次
国内外で総合的な人事スキルを身につける
■海外勤務を希望して、自動車部品メーカーの人事に。
新卒で入った最初の会社で約15年間、人事として国内、海外での勤務を経験しました。もともと海外勤務に興味があり、当時の人事採用担当の方から、人事であれば早く海外に行けるチャンスがあるという言葉に惹かれて入社しました。
その希望が叶い、約1年6カ月間のアメリカ駐在では、日本の本社とアメリカ拠点のつなぎ役である人事コーディネーターを任せてもらえました。駐在員および現地スタッフの労務管理なども経験した後、一旦日本の本社に異動。海外での人事経験を活かして、海外拠点の立ち上げプロジェクトでの人材採用、労務などの制度設計、組織づくりを幅広く手がけました。
さらにその後、今後はイタリア現地法人の経営立て直しに加わり、黒字化に向けたさまざまな仕事を経験しました。そして40歳を機に、新しい活躍の場を求めて転職を決意。これまで日系の大きな会社にいたことから、外資系の小さな会社へ行こうと外資系インポーターに入社。日本法人の人事総務マネージャーとして、人事総務業務全般を担当するのと同時に、人事諸制度の改定等を通したチェンジマネジメント、エンゲージメント向上に取り組みました。
■より専門的な経験を積むべくプロフェッショナルファームへ。
外資系インポーターでは2年弱働いたのですが、人事総務マネージャーという立場から総務業務も多く、ファシリティマネジメントの業務も多く担当していたんですね。自分としては人事としてより専門的な経験を積みたいと思っていたことから、業務がひと区切りついた段階で再び転職を決意しました。
そこで入社したのが、プロフェッショナルファームです。この会社では、労務のオペレーション(主にC&B:報酬・福利厚生に携る業務)をメインに担当しています。その他にオペレーショナルな業務だけではなく、社内プロジェクトへ参加し、企業文化や価値観の浸透施策、従業員エンゲージメントやユーザーエクスペリエンスの向上にも参画しています。また、ちょうど私が入社した頃に、グローバルな事業譲渡に関わる案件があり、日本法人の立ち上げに関する業務支援を担当することができました。人事業務の効率化を推進する一方で、従業員のやる気を高める制度や仕組みづくり、そしてグローバルな人事対応も経験することができました。
また、プロフェッショナルファームに入社した頃から、パラレルワーカーとしても働き始めています。担当しているのは、医薬関連企業の人事BPR(業務改革)推進やHR-IS(人事システム)導入などです。パラレルワーカーを選んだのは、自分で売上をつくる仕事がしたかったから。人事経験がある方なら共感いただけると思いますが、企業で人事をしていると、営業とは違って自分で利益を生み出す機会がほとんどありません。私自身も営業経験はありませんが、自分の力で売上を上げ、利益を生み出す実感を得たいと思ったんです。
■グローバルに活躍する中で得た経験について。
日系メーカーの海外拠点および外資系企業での勤務経験があることから、よく「日本と海外の違いはどんなところか?」と質問されます。人事の仕事そのものに大きな違いはないと思いますが、差を感じるのは背景です。例えば日本の本社の考えを、どのように海外の人に伝えるべきかはいつも苦労するところ。逆も然りです。日本には日本の考え方や理屈があり、同じように海外にもあります。日本と海外のどちらがヘッドクォーターであるのかにも影響を受けるのが難しい部分ですね。
その中で工夫してきたのが、できる限りグループ全体の視点で考えること。親会社の理論だけでなく、グループ会社で働くみなさんの気持ちも考慮した上で、それぞれの立場で納得できるよう働きかけ、調整するのが人事の役割だと考えています。
組織変革や制度変更を推進するうえで大切にしていること
■組織変革(チェンジマネジメント)のプロジェクトから感じたこと。
会社規模、本社・子会社という立場の違い、また性別や国籍、年代も異なる環境下で、人事業務を幅広く経験してきたことは私の大きな強みです。また、それぞれの環境でマネージャーなどチームを率いた経験から、全体視点で組織マネジメントやリーダーシップを発揮できることも強みだと考えています。
これまでの経験でも特に印象に残っているのは、外資系インポーターで人事総務マネージャーを務めていた際、コロナ禍に入ったタイミングで担当した組織変革のプロジェクトです。将来に適した組織への変化に向けて、組織を活性化させていくために、ドイツ本社とともに組織変革を推進し、人事制度の改定を行いました。3ヶ月単位のフレックス制度やカフェテリアプランの導入、通信費の削減、業務の見直しによるコスト削減のほか、早期希望退職プログラムの実施等による組織の新陳代謝・活性化にも取り組みました。
大きな組織変革を推進する際には、環境が変わることに対してネガティブに感じる人が一定数いるのは仕方がありません。ただ、企業が抱える課題や変化にはしっかり対応していく必要があります。コミュニケーションを密にとるのはもちろん、世界情勢や業界動向を踏まえて自社のビジネスがどう進んでいくのかをしっかり説明し、きちんと納得してもらったうえで理解と協力をしてもらえるようにする。そういった姿勢を大事にすることで、どんな国や場所でもプロジェクトを成功に導けると考えています。
■組織開発や制度変更では、設計だけでなく運用まで考えることが大切。
今、人事をしている方の中には、大きく分けて2つのタイプがいると思います。1つが、タレントマネジメントやエンゲージメント、チェンジマネジメントなど、いわゆる戦略的なところが得意なタイプ。もう1つが、労務管理や福利厚生、就業規則の策定といった従来からあるトラディショナルな人事業務が得意なタイプです。それぞれが必要ですが、この両方をうまくできる人事パーソンというのは思ったより多くありません。
当然ながら、組織や制度の設計など戦略的なところも、実際の運用のところもどちらも重要です。よくあるのが、組織や制度を設計しただけで、実際の運用まで考えられていないケース。絵を描く人は瞬間的にうまくできれば満足するのですが、大切なのはできあがった制度を継続的に運用し、組織をより良くしていくことです。私は絵を描くところから運用まで両方を経験してきたことで、長期的な視点を持ち、成果を出すところまでこだわっていることが自身の強みであり、顧客に提供できる価値だと考えています。
■引き出しの多さも自分なりの強み。
これまで幅広く人事業務を経験してきたことも、自分の強みになっていると思います。海外拠点の立ち上げでは、不確実な要素が多い中で、工夫を凝らしながら成果を残す大変さを学びました。頭で考えるだけでなく、行動に移し結果を出す難しさを体験できたことは、今の自信につながっています。
人事システムリプレイスの案件は、過去に何度も失敗したほど難易度が高いプロジェクトでしたが、責任者として最後までやりきった成功体験が得られました。難易度の高い案件にも関わらず結果を出せたのは、仕事を楽しみながら、柔軟に対応してきたからです。
予期せぬ状況に陥ったとしても「こんなことも起きるんだ」と前向きにとらえ、置かれた状況を楽しんでいました。私にとって仕事はゲームのようなもの。危機的な状況であったとしても、職場は自分の遊び場だと思って、いつもポジティブに向き合ってきたのが、うまくできた要因だと思います。
働き方にとらわれず、人事から会社を変えていく楽しさ
■働く環境の違いが、自分の価値を再認識させてくれる。
先ほども申し上げた通り、自分の力で利益を生み出す実感を得たいと思ったことが、パラレルワーカーを選んだ理由でした。実際に副業をやってみて感じるのは、新しい仕事にチャレンジできる面白さと、自分の経験やスキルが社会で充分通用する自信を得られたことです。
普段自分では特に意識していなかったのですが、顧客とやり取りしていると、対応の早さやドキュメンテーションのクオリティを評価してくださる場面が度々あります。一つの会社で働いていると、こうした会社ごとの違いになかなか気づけません。また、関わる会社が変われば環境も変わり、いつも新鮮な気持ちで仕事に挑めるのも、パラレルワーカーならではのメリット。たとえ同じシステムを導入するとしても、会社によって重要度が違っていたり、期待度が違っていたりして良い刺激になっています。
常に新鮮な気持ちで仕事と向き合えるからこそ、新しい考え方や視点を持てるようになり、それを実務にも活かせています。そうした中で気を付けているのは、「外部の人間」ではなく「同じ会社の人間」であるという意識を持ち続けることです。もちろん、第三者的な視点や意見が問われる場面もありますが、副業先も自分の勤務先の一つですし、社員のように当事者意識をしっかりと持ちながら一緒に仕事をさせてもらっています。
■どんな副業先にも馴染める引き出しの多さ。
特定の分野に限らず、幅広い実績とノウハウを持っている点が、人事としての個性だと考えています。どんな副業先でも自然と馴染めるのは、経験が多いからこそです。副業先も自分の勤務先の一つであるものの、主役はあくまで副業先のプロジェクトのマネージャーの方であり、自分は俯瞰的に状況を見て支援や後押しするのが役割です。
例えば、制度を新しくする際には、いきなり「こうしましょう」と提案するのではなく、取引先の意見を聞く壁打ち役に徹します。どこの会社も「自分の会社は特殊だ」と思いがちですが、客観的に見てみると全然そんなことはなくて、視野を広く持てばいろんなやり方が当てはまることに気づけます。そのきっかけづくりに自分を役立てていただきたいですね。
■人事の専門家を求める企業はまだまだ増えていく。
これからもパラレルワーカーとして多くの企業と関わっていきますが、一緒に働きたいと思うのは、たくさんのエネルギーを持っている方々です。ずっと人事の仕事に携わってきましたが、まだまだ今後も成長していかなければなりません。いろんな企業を知り、多くの人と関わる中で、良い刺激をいただきながら、「この人となら仕事をやっていきたい」と思われる人材に成長したいですね。
これから副業を始める方には、人事にはパラレルワーカーとして活躍するチャンスがたくさんあることを知ってほしいです。いろんな職種がある中でも、人事は特に副業がしやすい仕事です。また、新しい環境に身を置くことは、自分自身の成長に確実につながります。ぜひ期待を持って、新たな一歩を踏み出してみてください。