事業会社とコンサルティング会社を経験した人事だから分かる、組織づくりに重要なこと
HR領域におけるスペシャリストがバトンをつなぐ形式で体験談を紹介していく「リレーインタビュー企画」。今回は上田 明良(うえだ あきら)さんにお話を伺いました。
マッチングアプリ『with』『Omiai』を運営する株式会社エニトグループにて、VP of People、人事戦略室長を務める上田さんは、事業会社3社での経験を積んだ後、組織人事コンサルティング会社での勤務を経て現職というキャリアをお持ちです。
今回は、そんな上田さんのキャリア、事業会社とコンサルティング会社の双方での経験があるからこその強み、ビジョンなどについてお話を伺いました。
<プロフィール>
上田 明良(うえだ あきら)/株式会社エニトグループ VP of People、人事戦略室長
大学卒業後、組織人事コンサルティング会社にて採用戦略立案・導入を中心としたコンサルティングに従事。その後、大手物流企業グループのシステム開発会社の人事、スマートフォン向けゲームパブリッシャーの人事部長として人事業務全般を担当。2018年よりEYストラテジー・アンド・コンサルティングにて、グループ再編・新会社設立・PMIなど組織人事関連のプロジェクトをリード。2022年2月に株式会社withに入社。現在は株式会社エニトグループのVP of People、人事戦略室長を務めている。
目次
事業会社での仕事を通じて、人の人生を良くしていける「人事領域」でスキルを磨くことに
──まずは、これまでのキャリアからお伺いできますでしょうか。
新卒で入社したのが、組織人事コンサルティング会社。中小企業を中心に多種多様な業界の企業に対し、新卒採用のコンサルティングを行っていました。採用戦略の設計といった上流工程から、会社説明会の実施や内定者サポートなど日々の実務まで幅広く支援していました。
──そこから大手物流企業グループのシステム開発会社に転職した経緯も教えてください。
新卒採用のコンサルティングをやる中で、企業から組織の相談を受ける機会が増えていったんですね。「社員がすぐ辞めてしまう」「マネージャーが育っていない」といった相談で、どうしたらいいでしょうかと。私を頼ってもらえるのは嬉しかったのですが、新卒採用のソリューションでは解決できないことも多かったんです。
その一方で、新卒採用を通じて若い人材が入社することで、組織も活性化し、人の人生ってすごく良くなるんだと実感していました。こうした経験から、人事の仕事はやり方次第で人の人生を良くできるものだと考えるようになり、事業会社で人事をやることにしました。
──2社目以降はどのような経験を積まれたのでしょうか?
2社目は社員3,000名ほど、大手物流企業グループのシステム開発を担っていた企業です。人事として入社し、最初の1年は育成を担当し、2年目以降は人事企画を担当しました。メインは人事制度まわりで、制度設計から日々の運用までしっかり経験を積みました。7年ほど勤務しましたが、大手企業での仕事の進め方なども含め、貴重な体験ができたと感じています。しかし経験を積む中でより手触り感を感じられる場所で働きたいと考えるようになり、スマートフォン向けゲームパブリッシャーへと転職。2年目で人事責任者となり、人事業務全般を担当しました。その後、他の業界や企業でも通用するスキルが身についているだろうかと思うようになり、コンサルティング業界への転職を決めました。
「この会社にいたからこそ自分は良い人生を送れた」そう感じられる組織をつくっていきたい
──転職先のEYストラテジー・アンド・コンサルティングではどんな経験を積みましたか?
30代中盤からの新たなスタート。遅ればせながら、シニアコンサルタントというスタッフで入社し、新会社を立ち上げる際の人事制度設計、グループ再編における人事制度や人事機能の統合、PMIなど、組織人事関連のさまざまなプロジェクトに携わりました。
1年ほどでマネージャーになり、プロジェクトも複数担当しながら日々を過ごす中で40代も迫ってきて、将来について考える機会が増えました。このままコンサルティングファームでキャリアを積んでいくのか、それとも事業会社に戻るか。コンサルティングファームではシニアマネージャー昇格も見えてきていたので、残るならコンサルをやり続けていくだろうと感じていました。それでも再び事業会社への転職を決めたのは、本当にやりたいことは何かを考えた結果、同じ釜の飯を食べた仲間と良い仕事がしたい、自分が日々関わっている仲間が幸せになる瞬間に関与したいと考えたからです。
転職活動を通じて3社ほどから内定をいただきましたが、株式会社withへの入社を決めたのは、自分が関わることでより大きなインパクトを与えられると感じたからです。他の2社は誰もが知っている企業で、すでに組織もできあがっていました。株式会社withはまだまだ伸びしろがあって自身の介在価値を感じられると思いました。
加えて、株式会社withで働く方々のまっすぐな気持ちにも惹かれました。例えるなら職人のような感じでしょうか。みなさんが本当にユーザーのことを考え、より良いサービスを届けたいという気持ちが伝わってきました。自分自身もこの仲間たちと一緒に働き、仲間はもちろん、社会にもより良いインパクトを届けていきたいと思ったんです。
同じ組織で働く人たちに、良い影響を与えたい。何かのきっかけで会社を辞めることになっても、この会社にいたからこそ良い人生を送れたと感じてほしい。そんな組織をつくっていくために、自分の経験やスキルを活かしていきたい。周りからは意外な決断と言われましたが、私としては迷うことのない決断でした。
丁寧にコミュニケーションを取り、自分たちのメッセージをしっかり伝えていくこと
──株式会社with(現:株式会社エニトグループ)に入社してからはどういったミッションを担ってきたのでしょうか。
入社当時は30名未満だった組織も、2年半ほどで100名を超える組織になりました。急成長の裏で最初にやったのは、人事制度の刷新です。従来はオーナー主導で評価を決めておりワークもしていましたが、今後多様なバックグラウンドから人材が集まることを想定し、評価と育成の基準をつくって制度に落とし込み、制度運用を通じて多様性が担保できる組織づくりに取り組みました。その後すぐに株式会社withと株式会社Omiaiが同じグループになると決まったのですが、当時の組織にPMI経験があるメンバーがいなかったため、コンサルティングファームで経験していた私がその役割を担うことになりました。
──二つの会社が一つになる過程でトラブルなどはなかったのでしょうか?
一人で進めたので業務ボリュームは多かったですが、意外と揉めなかったというか、意外とスムーズに進んだのが印象に残っています。カルチャー的にフィットしないので紛糾したり、退職者が出たりというのがほとんどなかったんです。なぜスムーズに進んだのかと振り返ると、コンサルティングファームでグループ再編における人事制度や人事機能の統合、PMIの経験や、事業会社での人事経験が活きたのかなと感じています。
──具体的にはどんな工夫をされたのでしょうか?
統合前の二社は、社風や考え方で異なる点がありました。それが分かっていたのであえて一緒にせず、各社を分けて残しました。ただそれ以上に重視したのが、これから同じ組織で働く仲間と丁寧にコミュニケーションを取り、自分たちの想いをしっかり伝えることです。
評価や育成の制度設計では、新しい環境でもキャリアを築けるイメージを持てるようにしました。今の能力やスキルを評価するだけでなく、どんなスキルを身につければ次のステップに進めるかを可視化し、評価する側もされる側も将来を描けるようにしました。
待遇や福利厚生を決める際にも、社員の声を丁寧にヒアリングし、一方の制度や仕組みを押し付けないようにしました。報酬を下げないのはもちろん、「新しい組織ではこのポジションだから、ここを頑張れば次のステップに進めるよ」といったメッセージも伝えることで、体制が変わってもポジティブに働けるよう意識しました。
──統合といってもネガティブにならず、ポジティブなメッセージを伝えていくと。
ビジョンやミッション、グループ名についても社員から公募したりと、みんなで組織をつくっていく機運を醸成できるようにしました。決まったビジョンやミッションを達成するために、まずは良いプロダクトをつくることに集中しよう。そうすれば自分たちは成長できるし、市場価値も上がっていき、最終的に生活水準も上げていける。自分の成長が会社の成長につながり、それが会社のためにもなり、社会のためにもなっていく。そこを意識的に伝え続けるなど、ポジティブなメッセージを伝えることは大事にしていました。
こうした動きを取れたのも、コンサルティングファーム時代に業界トップの企業グループのグループ再編プロジェクトに参画した経験があり、一連の流れを理解していたのが大きかったです。ルールや制度が組織に大きな影響を及ぼすことを経験値として理解していたからこそ、しっかりコミュニケーションを取り、誰もが納得して働けることを大事にしていました。
完璧はないことを理解し、目指す方向をブラさずに変わり続けていくことが大事
──事業会社とコンサルティングファーム双方を知る強みは何だとお考えですか?
大きく二点あります。一つ目は、人事制度設計、組織設計についてテクニカルに学んできたからこそ、一定規模までの組織の立ち上げであれば、人が辞めにくい組織、かつ人が育ちやすい組織をつくっていけることです。
二つ目は、さまざまなカルチャーの組織に対応できることです。例えば合議制かオーナーシップ型かにより、経営と社員の距離感に違いが出やすいかと思います。そのどちらにも対応できるのが自分の強み。合議制でシステマチックに決めていく組織なら、社員の意見を汲み取りながらプロセスに則って課題解決していくコンサルティングワークに近いやり方で進めます。トップダウンの組織なら、「社員感情だとこうですよね」と提言するなど、社員が言いにくいことを言う立場もとれます。組織の機微を理解しつつ、柔軟に対応していける自分の特徴であり強みではないでしょうか。
──より良い組織、より良い会社をつくるために人事がすべきことは何でしょうか?
改めて思うのは、「完璧はない」ということでしょうか。私自身できているかは分かりませんが、完璧はないことを理解したうえで変化し続けることが重要だと思います。
人事制度などはトレンドが振り子のように変わるというか、メンバーシップ型からジョブ型への流れがあるように、数年ごとに大きな変化があります。こうした変化をとらえながら、現状に満足することなく変わり続けることが重要だと思っています。
一方で変化することに慣れてしまうと、数年ごとに変えなければいけない気持ちになってしまうというか、変化自体が目的になってしまうこともあります。そうならないよう時代の変化や組織の状況に合わせ、長期を見据えてその場で最適なものを考えて対応していく。変化を目的とせず、理想に向かって変わり続ける。永遠のテーマではないかと思います。
──今後のビジョンや目標はありますか?
これまで組織づくりに注力してきましたが、今後は採用にも注力していきます。特に採用ブランディング。エニトグループのビジネスモデルは、少人数で効率的に成果を上げながら、いかにお客様に喜んでいただくかが重要なポイント。フィット感の高い採用と長期的な活躍を追求しているからこそ、採用ブランディングが大切になってきます。どんな社員が、どんな想いを持って働いているのか。こうした情報を充分に発信しきれていませんので、会社全体で採用ブランディングを強化していく考えです。
いま働いている社員は、『with』や『Omiai』など、マッチングアプリを体験したことがある社員も多いんですね。その社員たちは自分の人生に良い影響を与えてくれるものだと身をもって知っているからこそ、「自分だったらこうしたい」「もっとこうしていきたい」と最初から興味度合いが高いんです。自分たちの子ども世代ではマッチングアプリはもっと当たり前になっているから、その世代のためにもっと良いプロダクトをつくっていきたいと。
採用ブランディングに注力することで、マッチングアプリに触れたことがない方々にも自分たちを知ってもらい、一緒に働きたいと思ってくれる方を増やしていきたい。そんな未来に向け、さまざまなチャレンジを続けていきます。そしてゆくゆくは、「エニトグループで働いているんだ、いいじゃん」と思ってもらえる会社にしていきたい。エニトグループで働いていること自体がブランドになり、キャリアにもつながっていく。そのためにも認知度向上や事業ドメイン拡大なども検討していくつもりです。
自分自身はもちろん、大切な人が誇れる会社をつくっていきたい。足りないことばかりですが、事業の成長はもちろん、組織と人の成長のために貢献していきたいと思っています。
編集後記
自分や自分が大切にしている人が、誇らしく思える会社をつくっていきたい。たとえその会社を辞めたとしても、この会社にいて良かったなと思える組織をつくっていきたい。上田さんからお話を伺って印象に残った言葉です。そういった想いをベースに据えながら、人事制度や人事機能をつくったり、社員の方々とコミュニケーションを取ったりしていることも同社ならではの特徴だと感じました。今後はマッチングのみならず、ポストマッチングの領域に進出するなど、人の人生の転換点においてさまざまな価値提供をしていくことも考えているとのこと。これからのさらなる成長が楽しみな企業だと感じました。