「ESGコンサルタント」とは?企業へのESG支援ニーズが増加している背景とその業務について
企業が長期的な成長を目指す上で重視すべき観点である「ESG」。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉で、昨今はこの観点を重視したESG投資額が世界の投資額の1/3を占めるまでになっています。
本記事では、「ESG」への企業の対応状況や課題、ESG投資に向けた戦略の提案・導入・運用を支援する「ESGコンサルタント」へのニーズや業務内容・働き方について紹介します。
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目次
ESG対応が企業に求められる背景
近年、『非財務情報』の開示を求める声が世界的に増えています。非財務情報とは、その言葉通り『財務情報には含まれない情報』のことを指します。
※引用:国際統合報告フレームワーク 15ページ(2013年発行)/国際統合報告評議会(IIRC)
国際統合報告評議会(IIRC)が2013年に発行した『国際統合報告フレームワーク』によると、企業が保有する資本は以下6つに分類できます。
(1)財務資本……生産・サービス提供時に利用可能な資金、資金調達・事業活動・投資によって生み出された資金など
(2)製造資本……建物・設備・インフラなど
(3)知的資本……知識ベースの無形資産(知的財産権、ブランド力、組織力、顧客ネットワークなど)
(4)人的資本……人々の能力、経験、イノベーションへの意欲など
(5)社会・関係資本……規範、共通の価値や行動、ステークホルダーとの関係構築など
(6)自然資本……空気、水、生物多様性など
上記のうち、(2)~(6)が非財務情報にあたります。従来の投資や企業活動は、主に『財務情報(=財務資本)』をもとに行われてきました。しかし、2008年に米国で起こったリーマンショックをきっかけに世界的な経済危機に陥った頃から『非財務情報』への注目度が高まったとされています。短期的なリターンの追求がこのグローバルな金融危機を引き起こしたとの反省もあり、世界的な労働環境の変化や気候変動などのリスクを含めて“企業の長期的な持続可能性を評価する投資”が求められるようになった形です。
こうした流れの背景の1つに、『ESG投資・ESG経営の広がり』があります。ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉で、企業が長期的な成長を目指す上で重視すべき観点とされているものです。この考え方を投資面に取り入れたものがESG投資、経営面に取り入れたものがESG経営と呼ばれています。
また、人的資本に関する情報開示義務化もこうしたESG経営を推進する形となりました。2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して「人的資本の情報開示を義務づける」と公表しました。それに追随する形で、日本でも2022年には人的資本経営の実現に向けた検討会(経済産業省)によってとりまとめられた報告書である「人材版伊藤レポート2.0」、人的資本の情報開示ガイドラインである「人的資本可視化方針」の発表が相次ぎました。また、同年8月には経済産業省と金融庁をオブザーバーとする「人的資本経営コンソーシアム」も発足。そして、2023年3月期の決算以降は上場企業など約4000社に対して有価証券報告書への人的資本の情報開示が義務化されるまでになっています。
ESG経営を行う上での企業課題
前述したような世界的な流れを受け、日本でもESG経営に取り組む企業は増えています。日経BPコンサルティング調査部が2023年11月に上場企業向けに行った『ESG経営への取り組み状況調査』によると、「サステナビリティ推進」の担当部署を設置している企業は59.7%(※1)、「ESG推進」の担当部署を設置しているのは49.7%(※1)にも上りました。
※1引用:ESG経営への取り組み状況調査(2023年11月)/日経BPコンサルティング調査部
同じ調査の中で、ESG経営を推進する上で課題だと考えている項目についても言及されていました。その中では約8割近い企業が『専門性を持った人員の確保が難しい』『推進のための人員・リソースを割けない』と回答しており、知見・人員の両方が不足している現状が明らかになっています。
なお、この領域において専門性を持った人材がマーケット内に非常に少ないことも人員不足の要因となっています。前述した通り、ESG経営や人的資本経営の概念が広がって国内で取り組みがスタートしたのは2020年以降がメインであるため、そもそも実践経験がある方が少ないのです。中途採用でそうした人材を採用しようと考えても、そう簡単に採用できるわけではない現状があるのも事実です。
※引用:ESG経営への取り組み状況調査(2023年11月)/日経BPコンサルティング調査部
知見・人員に次ぐ課題として『取り組みに対する全社からの理解が得られない』『予算の確保が難しい』『経営層の理解が進んでいない/得られない』といった社内理解・浸透の課題がありました。ESG経営は数年~数十年の時間をかけて施策を行って初めて成果を実感できるものであること、成果を数値として表しにくいものが多いことなどの性質があるため、その意義や必要性を社内でなかなか浸透させられない点もESG経営を進める上での課題となっているようです。
昨今ニーズが高まる「ESGコンサルタント」とは
ここまでにご紹介した世界的な動きや日本企業が抱える課題を受けて、「ESGコンサルタント」への必要性が高まっています。ESGコンサルとは、企業のESG経営推進・ESG投資を増やす戦略/戦術立案・実行・アドバイスなどを行うことを指し、それらを実際に行う方をESGコンサルタントと呼んでいます。このESGコンサルを導入することにより、日本企業が抱える課題である『知見・人員不足』の双方を解決することができます。
まずは知見面。世界中で深刻化する環境問題や社会問題に対応するべく、各種法規制が多くの国や地域で行われています。これらを遵守することは非常に重要なことですが、こうした多様な法規制をすべて理解し適切な対応を行っていくことは容易ではありません。加えて、現代の消費者やステークホルダーは企業の社会的責任(ESG)に相当敏感になっています。時に企業の想像を超える形の反応やリスクが顕在化する可能性も高まっていることから、この分野において専門的な知識・経験を有するESGコンサルタントの存在は今や多方面から求められるものとなっています。また、新規事業や新しいアクションを興す際にESGの観点でステークホルダーに情報提供することで、よりインパクトの強い情報伝達が可能になります。
加えて、近年はサステナビリティ関連の非財務情報の開示が世界的により強く求められるようになってきました。日本国内でもサステナビリティ基準委員会にて開示基準の開発が進められており、2024年3月にはその公開草案が公表されています。また、1998年からスタートしている温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)では、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に対しその排出量の算定と国への報告を義務付けており、時代に合わせて何度も改正が行われています。こうした社会的な背景もESGコンサルに対する必要性を高めています。
次に人員面。社内人材を育成してこの分野の専門人材とすることも不可能ではありませんが、それには膨大な時間が掛かってしまいます。かといって、専門人材を外部から採用することも昨今の求人倍率の高さなどからもわかる通り簡単ではありません。加えて、前述した通りESGや人的資本に関する概念は近年発達してきたものであるため、そうした知見を保有している人材が市場にわずかしかいません。こうした状況下では、必要なときに必要な知見とリソースを提供してくれる外部人材(≒ESGコンサルタント)の存在はとても活用しやすいものだと言えるでしょう。
なお、ESGコンサルタントが果たす業務には大きく以下4つがあります。
(1)ESGやSDGsに貢献する企業活動の分析
企業の活動が環境や社会に与える影響、およびSDGs(持続可能な開発目標)に対する関与を含む、企業の現在のESG取り組みに関する情報を集め、それをデータとして分析します。この工程の中には、業界内外の類似取り組みやトレンドの調査も含まれています。
(例)ESG指標とPBR(株価純資産倍率)の関係性を分析し、ミッションとの結びつきや価値との関連性を分析する
(2)ESG方針の策定と指導
データ収集とESGに関する現行の実績評価を踏まえ、改善点を洗い出して企業に提案します。環境・社会・ガバナンスの各分野にわたって実施すべき方策を明示し、詳細な施策実行計画の策定までも行います。
(例)ESG指標とPBR(株価純資産倍率)の関係性を分析した上で、取り組むべき課題を定めてESGアクションから企業価値向上までのストーリーを策定し提案する。
(3)ESGに関わるリスク特定と対策
企業におけるESG関連のリスクを特定し、それらの影響を評価します。環境・社会・ガバナンス面での潜在的なリスクを徹底的に調査し、リスク低減のための方策まで提案します。
(例)世界的飲料メーカーが特定地域の工場で水を大量に汲み上げたことによる干ばつなどの水資源問題から操業停止に追い込まれた。
(4)成果報告と情報開示
企業のESGへの取り組みを集約した報告書を作成し、ステークホルダーへの情報開示を行います。企業の透明性と信頼性を高める上では一貫性を持って適切な情報公開を行うことが求められるため、知識・経験がモノを言う領域です。
(例)統合報告書や非財務報告書の企画・制作、Webサイトの改訂など
「ESGコンサルタント」としての働き方
「ESGコンサルタント」として活動する上では、大きく以下3つの働き方・パターンがあります。
(1)事業会社
事業会社に属するESGコンサルタントとして、自社のESG経営推進に関わるパターンです。経営メンバーはもちろん、投資家を中心としたさまざまなステークホルダーと関わりながら“自分ごと”としてESGに取り組み経験を積むことができる点が最大のメリットです。
一方で、組織内に知見を持った方がいない、自社以外の取り組みについて学ぶ機会が少ない、などの制限があります。ESGコンサルタントとして実体験に基づいたリアルで深い経験を積みたい場合にはうってつけな働き方ですが、広く新しい知識・経験を積みたい場合は難しい面も多いことを理解しておく必要があります。
(2)コンサルティングファーム
ESGやSDGsの領域にも明るいコンサルファームに在籍し、そのいちコンサルタントとしてクライアント企業のESG経営推進に関わるパターンです。クライアントが多数いるコンサルファームであれば、さまざまな業職種・企業規模・フェーズのESG経営推進案件に関われるチャンスがあります。また、社内にはいろんな知見を持ったコンサルタントが在籍しているため、その方々から知識・ノウハウを吸収することも可能です。
一方で、外部コンサルとしてESG経営推進に関わる形となるため、課題分析や戦略立案などの上流部分の経験は詰めますが、実践部分のリアルな経験は積みづらい点があります。
(3)外部人材(複業/副業・フリーランスなど)
ESG関連の知見を持った専門家として、副業やフリーランスなど外部人材の立場で企業のESG経営推進に関わるパターンです。どんな業職種の企業プロジェクトに参画するか、プロジェクトへの関わり方(どこまで手を動かすか)、関与・コミットレベルはどうするか、などもクライアント企業との事前すり合わせの中で決めることができます。例えば、『ESG経営を推進したいが、そこにリソースを割く人的な余裕も、知見を持った方もいない』という企業の1人目ESGコンサルタントとしてジョインし、課題分析や戦略立案などの上流部分から実際の対応や情報開示に至るまでの後工程部分までを“自分ごと”として取り組むことができます。
一方で、一定以上の専門性は持っている必要があります。必ずしも一連の知識・経験がある必要はありませんが、特定分野においてプロジェクトをリードできる経験もしくは実績がなければ外部人材として企業のプロジェクトに参画することは難しいでしょう。
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まとめ
ESG投資額は米国で一時的に減少(2022年実績)しましたが、その要因はESG投資そのものへの不信などではないこと、日本やオセアニアを含むその他の国では投資額が増加し続けていることなどを踏まえると、「ESGコンサルタント」に寄せられる期待はまだまだ大きくなっていくことが予想されます。
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