「スーパーフレックス制度」とは? 導入方法や注意点を事例と共に解説
働き方の多様化が進む中で、注目されているフレックス制度。従業員が柔軟に就業時間を選択できるのが特徴です。
今回は、その中でもコアタイムのない「スーパーフレックス制度」の特徴やメリット、スムーズに運用するための方法について、制度導入経験をお持ちのパラレルワーカーの方に解説いただきました 。
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目次
「スーパーフレックス制度」とは
──「スーパーフレックス制度」の概要について教えてください。似た制度であるフレックスタイム制や裁量労働制との違いも踏まえて教えてください。
「スーパーフレックス制度」とは、企業が勤務必須と指定する時間帯(コアタイム)がないフレックス制度です。「スーパーフレックス制度」では従業員が始業・就業時間を『完全に』自由に決めることができます。遅刻・早退の概念もありませんから、より柔軟に育児/介護・自己啓発などの個人的な予定に合わせて働くことが可能です。ただし、就業日を決める裁量はないため、丸1日勤務しない場合は欠勤扱いとなります。コアタイムがないことから『フルフレックス』や『コアタイムなしフレックス』と呼ばれることもあります。
近年ではコアタイムの時間短縮や廃止を進め、「スーパーフレックス制度」への切り替えを検討する企業の話も聞きます。
──似た制度であるフレックスタイム制や裁量労働制との違いも踏まえて教えてください。
「スーパーフレックス制度」と異なり、通常のフレックスタイム制度では企業がコアタイムを定め、それ以外の時間で従業員が日々の始業・就業時刻や勤務時間を選択して働きます。
また、似た制度に『裁量労働制』があります。勤務時間が自由な点は同様ですが、『裁量労働制』は業務の遂行方法、時間配分が大幅に従業員の裁量に委ねられることなどを条件に労使協定等で定めた時間を労働したとみなす制度のことです。以下に違いを整理します。
(1)賃金の支払い方法
『裁量労働制』では、実際に働いた時間ではく、あらかじめ会社と従業員間で定めた時間(=みなし労働時間)に対して賃金が支払われます。例えば、みなし労働時間を7時間とした場合、実際の勤務時間が6時間でも8時間でも勤怠上は7時間勤務したとみなす形です。
一方「スーパーフレックス制度」は、一定期間(精算期間)であらかじめ定めた総労働時間に対し、実際の勤務時間の賃金が支払われます。例えば、清算期間の総労働時間を160時間とした場合、それを超えた時間は割増賃金の支払い対象となります。
つまり、「スーパーフレックス制度」では働いた分が賃金に反映されますが、『裁量労働制』では長時間労働となっても賃金は増えません。ゆえに成果重視になりやすく、働き方にも不規則性が生じます。反対に、成果さえ出せれば仕事を早く終わらせてそれ以外の時間に費やすこともできるようになります。
(2)対象者の範囲
『裁量労働制』は、対象者(職種)が新商品・新技術の研究開発や情報処理システムの分析・設計、広告のデザイン業務(下記参照)などに限定されます。一方「スーパーフレックス制度」は、対象者(職種)を各会社内で自由に設定することができます。
<対象業務>
◾️専門業務型裁量労働制
以下のいずれかに該当する業務
(1) 新商品・新技術の研究開発業務
(2) 情報処理システムの分析・設計業務
(3)書籍・テレビ・ラジオの取材・編集業務
(4) 広告デザイン業務
(5) テレビ、映画等のプロデューサー又はディレクター業務
(6)コピーライター業務
(7) システムコンサルタントの業務
(8)インテリアコーディネーターの業務
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作業務
(10) 証券アナリストの業務
(11) 金融商品の開発業務
(12) 大学における教授研究業務
(13) M&Aアドバイザーの業務
(14) 公認会計士の業務
(15) 弁護士の業務
(16) 建築士の業務
(17) 不動産鑑定士の業務
(18) 弁理士の業務
(19) 税理士の業務
(20) 中小企業診断士の業務
◾️企画業務型裁量労働制
以下の4条件をすべて満たす業務
(1)業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること
(2)企画、立案、調査及び分析の業務であること
(3)業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、業務の性質に照らして客観的に判断される業務であること
(4)業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
(3)手続き
『裁量労働制』を導入するためには、労使協定の締結に加えて、労使委員会の決議、定期報告の他に本人の同意や同意の撤回などの手続きが必要になります。一方「スーパーフレックス制度」は、就業規則と労使協定の締結でこと足ります。
ちなみに、『裁量労働制』はみなし労働時間のため時間管理は簡素化されますが、実労働時間が超えてもその分の賃金は支給されません。また、全社員に導入したくとも職種によって難しい場合が出てきます。反対に、「スーパーフレックス制度」は勤務時間に対して賃金が支払われるため時間管理が複雑になりますが、勤務時間に応じた賃金が支払われます。また、対象者にも制限がないため会社で自由に設定できます。
「スーパーフレックス制度」の導入背景とメリット・デメリット
──企業が「スーパーフレックス制度」を導入する背景にはどのようなものがあるのでしょうか。メリット・デメリットとも合わせて教えてください。
時代の変化と共に、仕事と生活との両立が求められる方や、多様な職業観を持つ方(元々持っていたものも含む)が増えました。また、グローバル化や競争環境が激化する中では業務効率化や生産性向上も求められます。
一方で、少子高齢化による労働人口の減少を受けて優秀な人材を確保することが非常に難しくなっています。新規採用が簡単にできない分、既存メンバーのリテンションや離職率抑制が重要になっていることから、『いかに従業員のエンゲージメントを高めるか』が多くの企業でテーマとなっています。また、介護や子育てなどによるやむを得ない離職を防ぎ、優秀な人材が働き続けられる労働環境を整えることも企業には求められるようになっています。
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フレックス制度は、その解決策の1つになっています。従業員のライフスタイルに合わせた働き方を実現させることで生産性向上を追求し、柔軟な働き方を推進して採用率アップや離職率低下につなげていく効果にも期待が集まっている形です。「スーパーフレックス制度」はこうしたメリットがさらに向上したものと捉えてもらうと良いでしょう。コアタイムがあると育児や介護などクリティカルな対応が求められるケースではどうしても一定の制限がありましたが、「スーパーフレックス制度」ではそれらの問題も解消できます。
別角度の視点では、従業員の自律的な働き方を促進する効果への期待もあります。自分の働く時間を自分で設定するためには、自律的なスケジュール管理が必須です。これにより従来とは違うタイムマネジメント力、セルフマネジメント力、目標設定・達成力が磨かれます。
もちろん、「スーパーフレックス制度」にもデメリットはあります。その代表的なものは『勤務時間の入れ違いによるコミュニケーション不足問題』です。これは通常のフレックス制度でも同様の問題はありますが、「スーパーフレックス制度」によりコアタイムがなくなることでこの問題がさらに大きくなります。コミュニケーションを取りたい相手が必ず勤務している時間があるわけではないので、いつなら勤務しているか・連絡が取れるのかを都度確認しながら仕事を進める必要が出てきます。また、自由に時間が選べる分、責任感から無理をして深夜に就業する従業員が増えた結果、深夜残業代の負担が増えたり、健康に悪影響を与えてしまったりすることも考えられ、これまで以上に適切に従業員の勤怠を管理する必要が出てきます。
こうしたメリット・デメリットがある中で、職種やポジションによっては「スーパーフレックス制度」が適さないケースもあるのは事実です。例えば、エンジニアやライターなどクリエイティブ業務は個人の裁量で仕事が完結しやすいため、「スーパーフレックス制度」(フレックスを含む)は向いています。また、従来は対面でないと難しかったプロジェクト系の仕事もWeb会議などオンラインが発達したおかげで「スーパーフレックス制度」の恩恵を十分享受できるはずです。
一方、飲食や小売店などにおける接客業務、生産ラインに立っての製造業務、配送業務など、現場での対面コミュニケーションが必須となる業務には「スーパーフレックス制度」は適しません。また、対面での会議出席が必要なマネジメント業務や、突発的な業務が多発する現場なども同様です。
「スーパーフレックス制度」は、一定の裁量を付与して成果を出す『自立した従業員』に適した制度です。それゆえ、個人の生産性向上だけを優先した自分勝手な運用ではなく、組織の生産性向上を優先させられるように全体の共通認識を持ってもらうトレーニングや啓蒙が欠かせません。また、一定期間に集中して長時間労働を招きやすいリスクもあるため、企業側でしっかりとした健康管理体制が整備できているかは注意深く見ていく必要があります。
運用を見越した「スーパーフレックス制度」の導入・設計方法
──どのように導入・制度設計を進めるとうまく運用も進められるようになるでしょうか。
導入にあたり重要なのは、『目的を明確にしておくこと』です。柔軟な働き方の実現、採用施策の一環として導入を考える方も多いと思いますが、プラスの効果よりも『組織としての力がダウンしないか』をまずは考慮しましょう。働き方に柔軟性を持たせても組織力はダウンしなかった──なら効果として十分合格、組織力が上がるようなことがあれば非常に喜ばしいレベルと捉えるくらいでちょうど良いでしょう。
制度設計時に重要なのは、『リアルな現場感を把握して課題を洗い出すこと』です。現場ヒアリングから運用上の課題を想定し、どうすればそれらの課題を解消できるかを検討していきます。なお、このタイミングで同時に「スーパーフレックス制度」の目的と効果についても従業員に説明し、個人最適ではなく会社全体最適の施策であることを浸透させます。
一方、会社としては健康面・労務面で安全配慮義務を講じなければなりません。1日の勤務時間が長時間になり、それが連続してしまうと健康保持の観点でリスクが相当大きくなります。「スーパーフレックス制度」に限らず、フレックスタイム制度では一定期間に労働時間が集中しやすい特性があるため注意が必要です。特に深夜勤務は健康面・労務面でも多大なる影響があるため望ましくありません。自由に勤務時間を設定できることはメリットには違いありませんが、その上限や幅などは要検討でしょう。
もう1つ運用を踏まえて考えなければならないのは、先ほどデメリットでも上げた『コミュニケーション不足問題』への対処法です。コアタイムがないため、誰がいつ勤務しているかは確認しなければ分かりません。そのような環境下でコミュニケーションをどう取るか、全員が集まる会議時間をどのように捻出するかなどについて現場を交えて検討した上でルールを設定する必要があります。各自の始業・終業時刻が分かるツールなどを導入できれば、一定解消できるかもしれません。また、成果を明確にする必要があります。仕事の質・ゴールが明確に定められていなければ、評価も十分にできないためです。
「スーパーフレックス制度」の導入事例
──「スーパーフレックス制度」を実際に導入した際のことについて、可能な範囲で教えてください。
以前在籍した企業では、以下2つの目的で「スーパーフレックス制度」の導入を検討していました。
・時間について従業員に裁量を与えることで、自身で責任を持って時間・業務管理ができる自律的な人材を育成する
・介護との両立が可能な環境づくり(従業員の平均年齢上昇を見据えて)
制度を設計する前には、管理職層を中心にヒアリングを行って課題の洗い出しから始めました。そこで聞かれた懸念は、セルフコントロール・チームワーク・コミュニケーションに関するものが大半だったことを覚えています。ちなみに、このヒアリングを行う際には「スーパーフレックス制度」の導入目的・期待する効果なども管理職層に説明し、ゆくゆくの運営を見据えた下準備も行っていたことを補足しておきます。
また、ここまでにご紹介した導入にあたっての注意ポイントである『健康面・労務面の安全配慮義務』、『コミュニケーション不足問題』についても先回りで対処をしました。
まずは『健康面・労務面の安全配慮義務』。前述した通り、深夜勤務は健康・労務リスク共に高まります。そのため、5:00~22:00をまでをフレキシブルタイムとして設定しました。なお、清算期間も事務効率を考えて1カ月としています。
次に『コミュニケーション不足問題』。こちらは原則1週間前までにフレキシブルタイムの中での基本稼働時間を設定し、予定表ツールで周囲に共有することをルールとして制定。これにより全員が集まる必要のある会議も設定しやすくなりました。もちろん突発的な用事などで基本稼働時間が変更になる可能性はありますが、その際はチャットなどでオープンに共有・連絡を行えるよう環境整備を合わせて行いました。
実際に「スーパーフレックス制度」を導入する際には、その導入目的や期待する効果について丁寧に説明していきました。特に重点的に伝えたポイントとしては以下2つです。
・「スーパーフレックス制度」はあくまで自律的な働き方を実践する集団を目指すために導入するもので、個人最適を追求するためのものではない。
・自分と仲間を思いやりながら、会社全体最適で最も効率の高い働き方を追求するための制度である。
こうしたマインド部分を伝えておかなければ、『個人の権利』的な形で自分勝手な活用をされる恐れもあります。いかに最初に考え方やマインドを醸成しておけるかが、「スーパーフレックス制度」を運用し成果を出す上では非常に重要な点だと言えるでしょう。
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編集後記
『時間も場所も選べる働き方』は、今後さらに広がっていくことが予想されます。しかしながら、どんな業種・職種でも「スーパーフレックス制度」が適応するとは限りません。しっかりとその性質を理解して、自社にフィットするものであるかどうかは見極めていく必要があるでしょう。また、従業員にもきちんとその意義や目的を伝え、単なる便利な制度だと勘違いされないようにもしたいところです。