「女性版骨太の方針2024」の概要からポイントまでD&I推進担当者が詳しく解説
2024年6月11日に「女性版骨太の方針2024」が発表されました。これは、女性を取り巻く課題を解消するために重点的に取り組む事項や方針をまとめたものであり、毎年6月頃に当該年度・翌年度に取り組む事項について発表されます。
今回は、D&I推進担当としての経験を豊富に持つパラレルワーカーの方に、「女性版骨太の方針2024」の概要・ポイントから自社施策への活かし方にいたるまでお話を伺いました。
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国内大手IT企業の人事としてキャリアをスタート。新卒採用や各種研修を担当したのちにD&I推進担当へ。女性活躍推進や仕事と育児・介護の両立、LGBTQ施策の立案、障がい者雇用など幅広く経験。現在は国内大手メーカーの人事部門にて勤務中。
目次
「女性版骨太の方針」とは
──男女共同参画推進本部より定期的に発表されている「女性版骨太の方針」。この目的や策定背景などの概要について教えてください。
「女性版骨太の方針」とは、内閣にある男女共同参画推進本部から発信されている方針のことです。男女共同参画推進本部とは、日本における男女共同参画の推進を目的とした政府機関であり、1994年に閣議決定され発足しました。女性に関するさまざまな課題に対し、女性の活躍を支援する具体的な施策や目標を設定するために設立され、内閣総理大臣が本部長、すべての国務大臣がメンバーという構成です。この「女性版骨太の方針」は、毎年6月頃に当該年度・翌年度に取り組むべき事項について発表されます。この取り組みの背景には、日本が抱える以下のような課題があります。
(1)少子高齢化
日本は急速な少子高齢化に直面しており、労働力人口の減少が懸念されているのは周知の事実です。その中で、女性の労働参加を促進することが経済活性化と持続可能な社会保障制度の維持に不可欠とされています。
(2)ジェンダー平等の推進
日本はこの分野で諸外国に遅れを取っており、『男女平等の実現に向けた取り組みを強化する必要がある』と国際的に認識されている現状があります。
(3)経済成長の促進
女性の社会進出と活躍を支援することが、経済成長の重要な要素とされています。多様な視点や能力を活かすことでイノベーションや生産性の向上が期待されているためです。
「女性版骨太の方針2024」のポイント解説
──「女性版骨太の方針2024」において、特に重要になるポイントを解説してください。
「女性版骨太の方針2024」では、女性活躍・男女共同参画を推進するための『人材育成』を横串に据え、以下4つの柱に沿って具体策がまとめられています。
(1)企業等における女性活躍の一層の推進
(2)女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの一層の推進
(3)個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現
(4)女性活躍・男女共同参画の取り組みの一層の加速化
(1)企業等における女性活躍の一層の推進
プライム市場上場企業の女性役員の比率を『2030年までに30%以上/2025年までに19%』『2025年までに女性役員ゼロ企業を0%』の目標達成に向けて、取り組みが進んでいない企業に対する支援強化が必要とされています。そのためには、女性人材の採用・育成・登用の強化、経営層・管理職など女性登用を推進する人材の意識醸成が鍵となっています。
(2)女性の所得向上・経済的自立に向けた取り組みの一層の推進
地域における取り組みを推進し、全国各地における女性活躍・男女共同参画の促進が必要です。地域の取り組みの担い手育成や専門性向上、リーダー層の意識醸成が鍵となります。具体的には、出産を契機に多くの女性が非正規雇用化する『L字カーブ』解消に向けた所得向上の取り組みや、仕事と育児・介護、女性特有の健康問題との両立を支援する取り組みなどです。また、都道府県ごとの男女参画状況にはバラつきがあるため、地方公共団体における取り組みを推進する地域リーダーの意識醸成・育成も進めて行きます。
(3)個人の尊厳と安心・安全が守られる社会の実現
2024年版の中でも特徴的な項目です。2024年1月に起こった能登半島地震における災害対応を検証し、今後の対応に活用すると明言しています。災害はすべての人の生活を脅かしますが、特に女性や子どもなど脆弱な状況にある人々がより多くの被害を受ける可能性が高いです。災害の各段階において受ける影響やニーズが、女性と男性で違うことについて十分に配慮された災害対応が行われることが災害に強い社会の実現のためには必要不可欠だと考えられています。
なお、この地震において政府は、発生直後に石川県を含む被災自治体に対し『防災・復興ガイドライン』に基づく取り組みを要請しました。また、内閣府男女共同参画局の職員を現地対策本部に派遣し、避難所運営などにおいて『女性視点からの避難所チェックシート』の活用を促したのです。しかし、一部の避難所では被災者支援体制において男女共同参画の視点が十分ではなく、女性のニーズに配慮した対応が不十分であったとの情報も寄せられています。
その他、配偶者暴力や性犯罪・性暴力の被害者などを支える人材の育成や、生涯にわたる健康支援を推進するための体制づくりの強化として、女性の消防士・消防団員・自衛隊の加入促進・女性警察官の採用や登用の拡大を推進するとしています。
(4)女性活躍・男女共同参画の取り組みの一層の加速化
あらゆる分野の政策・事業の計画などにおいて、男女別の影響やニーズの違いを踏まえることが必要だと考えられています。その観点から考えても、あらゆる分野における政策・方針決定過程への女性の参画が鍵となることは間違いありません。
──過去の方針と2024年版を比較した際、どのような違いやアップデートがあったのでしょうか。
過去の方針からさらに強化したいポイントとして挙げられていたものには、以下3つの項目があります。いずれも固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消を図る狙いがあるものです。
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「アンコンシャスバイアス」に気づき、組織力を高める方法とは
(1)企業における女性の採用・育成・登用の強化
(2)科学技術・学術分野における女性活躍の推進
(3)仕事と健康課題の両立の支援
(1)企業における女性の採用・育成・登用の強化
日本の女性役員比率はプライム企業平均11.4%(2022年)で、日本を除くG7諸国の平均38.8%、OECD諸国の平均29.6%(いずれも2022年)と比べても明らかに低く遅れを取っています。この解決には女性役員登用目標の達成に向けた各企業の行動計画策定促進、役員候補となる女性人材のパイプライン構築、女性登用の意義や必要性についての理解浸透を図っていく必要があります。具体的には、以下のような施策が実施予定です。
・ロールモデルとなる女性役員の事例集の作成など、啓発コンテンツ作成や情報提供を行う
・先進的な取り組みを行う企業と連携し、すべてのプライム市場上場企業に対する啓発(セミナー開催)などを行う
(2)科学技術・学術分野における女性活躍の推進
文部科学省『学校基本統計(令和5年度)』によると、大学(学部)の学生に占める女性割合は理学27.9%、工学16.1%といずれも3割を切っています。理工系分野を目指す女子生徒の育成に向け、各地域の大学・高専で理工系の魅力を発信する機会の増加を図っていく狙いです。具体的には、以下のような施策が実施予定です。
・若手ロールモデルによる授業の実施手順の事例などを示した『理工チャレンジ』プログラムを作成・周知し、地域の各大学・高専における取り組みを促す
・プログラミングに関する教育の充実を図り、中学校技術・家庭科(技術分野)や高校情報科の指導体制の充実を推進する
・大学・高専において、文理を問わず幅広い学生を対象としたプログラミング教育を含む数理・データサイエンス・AI教育を推進する
(3)仕事と健康課題の両立支援
働く女性の月経・妊娠出産・更年期など、女性のライフステージごとの健康課題に起因する望まない離職などを防ぐことで女性の活躍を支援します。具体的には、以下のような施策が実施予定です。
・労働安全衛生法に基づき事業主が行う健診において、月経随伴症状や更年期障害などの早期発見に資する項目を問診に加え、その実施をプライバシーに十分配慮した上で促進する
・企業などにおけるフェムテック製品・サービスの活用を促進し、好事例の横展開を行う
・健康経営銘柄・健康経営優良法人・なでしこ銘柄などにおいて、女性の健康課題に取り組んで成果を上げている企業や健康保険組合の好事例を集め、他の企業などにも広く周知する
「女性版骨太の方針2024」を基に施策を推進するためには
──この「女性版骨太の方針2024」でこれまで書かれている内容は、現実にはどのくらい浸透・現実化できているものなのでしょうか。
役員登用については、プライム市場上場企業の女性役員の比率を『2030年までに30%以上/2025年までに19%』『2025年までに女性役員ゼロ企業を0%』との目標が掲げられています。しかし、この目標に達するためのロードマップを描くことは現実的には難しい状態です。実状としては、女性社外取締役だけではなく内部からの役員登用や女性幹部候補育成にようやく力を入れ始めてはいるものの、現役職者の世代交代は進んでおらず、役員クラスの一部は女性幹部候補育成に対する危機感をあまり持っていないことも少なくありません。
私自身が在籍・経験した会社では、こうした施策のほとんどを人事主導で行っていました。実際に女性に限定した施策を展開すると、以下のような印象・意見・バイアスが見られたことを思い出します。
・女性にゲタを履かせることになる(印象)
・女性だけが昇格しやすくなる(印象)
・男性にも健康問題はあるにも関わらず女性だけが優遇される(印象)
・逆男女差別である(意見)
・設定された数値目標が非現実的で無理だと感じる(バイアス)
・女性側が優遇されることをそもそも望んでいないのではないか(バイアス)
そもそも、私たちは1人ひとりが異なる存在です。全員が持ちうる能力を最大限発揮するためには、1人ひとりに合った環境を整える必要があります。女性に向けた施策もその1つに過ぎません。そのように意識が変わらない限り、女性役員登用も目標達成は難しいだろうと考えています。
一方で、早期からジェンダーバイアスにより自分の可能性を狭めてしまわないような取り組みは、徐々にではありますが進んでいるように感じます。東京都ではSTEM分野(Science/科学、Technology/技術、Engineering/工学、Mathematics/数学)での女性活躍を推進するため、女子中高生向けのオフィスツアーを展開中です。中高生から仕事を意識させるのは早い気もしますが、大学進学の学部選びにも関わってくるため、積極的に企業側も参画して官民一体で継続的に取り組むことが大切になってくるのではないでしょうか。
──この「女性版骨太の方針2024」を自社の人事施策に活用する方法やポイントについて教えてください。
各人事施策の企画・検討はもちろん重要ですが、それ以前に欠かせないのが社内の意識を高め、課題認識を揃えることです。先ほどご紹介した通り、どれだけ必要で素晴らしい施策であっても、それを理解し一緒に推進してくれる現場でなければ何も始まらないからです。そうした理解や協力体制を築くためには、人事主導できっかけや機会を作っていく必要があります。
例えば、2022年に女性活躍推進法の制度改正が実施され、常用労働者301人以上の事業主に対し、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を開示することが義務化されました。有価証券報告書についても同内容の開示が義務付けされ、男女の賃金差が見える化された形です。『なぜこのような義務付けがなされたのか』について組織内で考える機会を設けることができれば、課題認識も揃えやすいと思います。
加えて、年齢や世代別の現場理解を進めていくことも大切です。例えば、年齢幅別の男女賃金差異を見ていくと多くの企業において『L字カーブ』に沿って差異が開いていく傾向があります。その差異が開いている世代の仕事内容や業務特性に合わせて施策を打つためには、ベースとなる仕事と育児・介護、そして女性特有の健康問題を理解し両立を支援していくことが重要です。
なお、「女性版骨太の方針2024」では取引所・機関投資家・先進的な取り組みを行う企業などと連携し、すべてのプライム市場上場企業に対する啓発(セミナー開催)を行うと宣言しています。こうしたセミナーには積極的に参加し、他社の取り組みから学ぶことも重要なのではないでしょうか。
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編集後記
「女性版骨太の方針」を参考にすると、政府が注力している施策はもちろん、自社が対応すべき事柄の把握にもつながります。まずはその内容を知り、自社に足りない施策が何かを認識するだけでも価値があるはずです。先進的な取り組みを行う企業の事例なども積極的に共有されていく予定のため、ぜひアンテナを張っておいてもらいたい分野だと言えるでしょう。