【参加者対談】「ピープルアナリティクス実践キャンプ」で得られた学びや視点、今後のビジョン
2023年11月より4ヶ月間、当社コーナーと株式会社シンギュレイトと共催で、未経験からピープルアナリティクスを学べる「ピープルアナリティクス実践キャンプ」の講座を実施いたしました。
本キャンプでは、ピープルアナリティクスにおけるプログラミングや要件定義書の作成の基本スキル習得だけでなく、実際の組織開発データの分析・レポート業務までを経験できるのが大きな特徴。専門家のもとで、データの集計・分析から人事施策につながる一連のプロセスを経験できるプログラムとして実施しました。
今回は、第1回「ピープルアナリティクス実践キャンプ」に参加された方々にインタビューを実施。プログラム参加の動機や期待、プログラムで得られた学びや視点、実務への活かし方を含めた今後のビジョンなどを伺いました。
◆キャンププログラム
1ヶ月目:
・PyQ(オンラインPython学習サービス)受講
・小売データ分析ワーク
2ヶ月目以降:
・シンギュレイト社のプロダクトレクチャー(イノベーション・サーベイ)
・大手消費財メーカーのクライアントデータ分析(イノベーション・サーベイ)
<参加者プロフィール>
▶パラレルワーカーへのご相談はこちら
①美馬 亜加里 氏
現在、グリー株式会社 コーポレート本部 人事部 組織開発チームにて組織・人事課題の解決を担当。
②内堀 奈美 氏
現在人事業務を中心としたコーポレート業務支援を行う会社を経営。外資系ベンチャーや中小企業の人事労務・経理業務、社内イベント改革、採用戦略など多岐に渡る業務に従事。
③内野 太貴 氏
現在、IT企業の人事担当として主に採用力向上に向けた現状把握・分析や施策検討などに取り組む。
目次
ピープルアナリティクスを未経験から学べる、実践で学べるのが魅力だった
──まずは、「ピープルアナリティクス実践キャンプ」に参加した動機から教えていただけますでしょうか。
美馬さん:社内の人的課題と日々向き合う中で、データを分析し、課題を解決できるようになりたかったからです。私は事業会社の人事部で組織開発チームに所属し、社内の人的課題を網羅的に解決するというミッションを担っているのですが、データまわりも詳しくなく、コードを書いたこともない状態でした。そんな自分でも未経験からチャレンジできるのが魅力で参加しました。
内堀さん:私は、国内でピープルアナリティクスという言葉を聞くようになった数年前からずっとこの領域に関心を持っていました。ですので「ピープルアナリティクス実践キャンプ」が開催されると知った瞬間、これだ!と思って申し込みました。
以前から関連書籍を読むなど情報収集はしていたのですが、知見やノウハウ、企業事例など生の情報に触れられる機会が少なかったんです。プログラムに参加することで、ピープルアナリティクスのリアルな情報に触れたい、とにかく吸収したいと考えていました。
内野さん:私も以前から強い関心があり、今回プログラムが開催されると知って申し込みました。仕事ではデータ集計に関わる良い機会をいただいているものの、近くにピープルアナリティクスを専門的に聞ける人がいないので、プログラムでは専門家のもとで学べるというのが大きな魅力でしたね。
──未経験から学べる、専門家のもとで学べるのが魅力だったようですね。その他、プログラム参加前に抱いていた期待はどういったものでしょうか?
美馬さん:基本の知識やスキルを学ぶだけでなく、実際の企業のサーベイをもとにデータ分析や資料作成を経験できるため、その後の実務にも活かしやすそうだという期待がありました。データをもとに潜在的な課題を発見したり、経営陣への施策の提案時にデータをもっと活用できるようになればと考えていました。
内野さん:そういったピープルアナリティクスの一連の流れを、プロフェッショナルのもとで型として身につけられればと期待していましたね。
内堀さん:私は現在クライアントの人事関連業務のコンサルティングや業務サポートをしていますが、以前は事業会社で人事をしていたんです。その際、組織に対する改善提案をしようと思っても、感覚ベースの提案では説得しきれないことがあって。人事がデータをもとに議論や提案をできるようになれば、経営陣のより確からしい意思決定を支援できる存在になれるんじゃないかと考えていました。そういったことができるようになるためのデータ活用のノウハウを得られればと思っていました。
実践を通じて学んだのは、データの扱い方やアウトカムを引き出す重要性
──続いて、プログラム開始後の感想をお伺いしていきます。このプログラムでは、ピープルアナリティクスにおけるプログラミングや要件定義書作成などの基本スキル習得からスタートしますが、難易度を含めどのように感じたでしょうか?
美馬さん:Pythonのプログラミング学習は、今振り返っても、難易度はとても高かったです。ただ、何も分からない状態からどれくらい難しいものかが分かった状態に変わりましたし、4か月の学習で「こういうことをしたいときにPythonは使えるんだ」と理解できました。
内堀さん:Pythonについては同じ感想です(笑)。PyQというオンラインPython学習サービスはスムーズに進みましたが、自分でコードを書く段階になって一気に難易度が上がりました。
美馬さん:要件定義書ではプロジェクトの背景・方向性・目的、そこからの成果の状態定義までをまとめたのですが、こちらについては日々の実務と同じような考え方、思考プロセスで進めるので比較的馴染みやすかったです。今までの経験をベースにしつつ、よりブラッシュアップできた感覚がありました。
内野さん:私は過去にPythonを学んでいたので、さほど難しさは感じませんでした。とはいえ、内容が複雑になってくるとお手上げで、そんなときは「ChatGPTに聞いてみましょう」というアドバイスをシンギュレイトのみなさんからよくいただきました。みなさんもコードがすべて頭に入っているわけでなく、Google検索やChatGPTを活用していると聞いて、安心して取り組めました。
──Pythonの難易度は高いものの、実際に触ってみたことで心理的なハードルが下がったわけですね。基本スキルを習得した後、実際の企業データの分析・レポート作成へと移っていきましたが、この過程で直面した課題はどんなものだったでしょうか?
内野さん:今回のプログラムは、「ゼロからつくる」が大きなテーマ。イノベーション・サーベイ(※)のレポート作成を進めた際は、3人で作成方針から話し合いました。レポートにはどんな情報が求められるか。その情報をローデータから整理・分析するためにどんな分析設計とするか。それをカタチにするにはどんなコードが必要なのか。指示されたものが何もない状態で、まずはやってみましょうと任されたのがプログラムの特徴です。何がベストかを3人で話し合いながら進めていくのは大きなチャレンジでした。
※イノベーション・サーベイとは…
シンギュレイト社が提供している組織の信頼度を測り、イノベーションの生まれやすさを診断するサーベイです。不安があっても他者を信頼する行動を、部署内・部署横断・対社外で実践できているかを定量的に可視化を進めるサーベイツールです。
美馬さん:限られた時間の中で議論し、協力しながら、みんなが納得のいくアウトプットを出すのも大変でしたね。同じデータを目の前に出されても、捉え方がこんなに違うんだと感じることもありました。
内堀さん:そこから感じたのが、事前に目的やゴールを明確にしておくことの重要性です。サーベイを実施する際は、経営陣やクライアント企業に対して事前にヒアリングを行い、なぜやりたいのか?何を課題だと感じているのか?何を実現したいのか?などの共通認識を持っておくことが欠かせないと思いました。
──「ピープルアナリティクス実践キャンプ」での“実践”を通じて、最も印象に残った学びは何でしょうか?
内野さん:シンギュレイト代表の鹿内さんがよく仰っていたのですが、「アウトプットからアウトカムを得る」というのが一番の学びです。データを集計・可視化して終わりではなく、そこからクライアントと対峙し、アウトプットを見せて意見をもらう。そこから議論しながらアウトカムにつなげていく。こうした考え方や一連の流れは今後にも活かしていきたいと考えています。
美馬さん:「このデータを見てどう思いますか?」と問いかけることで、本人も気づいていない考え方や示唆を引き出せるというのは私にとっても新たな発見でしたね。
これまでの私は、どこに向かいたいかのゴールを決め、そこに向かうための根拠としてデータを使うことを考えていました。最初は考え方が違っても、同じデータを見ることで目線を揃えられますからね。今回のプログラムで「データを使って相手から情報を引き出せる」と気づけたことは大きな学びでした。
内堀さん:鹿内さんで言えば、その知見やノウハウの豊富さも勉強になりました。プログラム期間中、鹿内さんと話す機会が多かったのですが、何を聞いても「一般的にはこう言われていて」「こんな研究事例があって」と答えが返ってきて。その引き出しの多さには驚かされましたし、私自身も今後インプットを頑張っていこうと感じました。
データ活用を当たり前にしていくことで、事業成長につなげていきたい
──「ピープルアナリティクス実践キャンプ」への参加で得られた学びを、今後どのように実務に活かしていきたいとお考えでしょうか?
美馬さん:私は所属する組織開発チームで、自社データを分析し、課題解決につながる施策を提案していきたいです。また、データを基にしたヒアリングを行うことで、経営陣など話す相手から新しい情報を引き出すこともやっていきたいと考えています。プログラム参加により社内でも話を聞いてもらいやすい状況にありますのでさっそく実践していきます。
内野さん:私も同様で、データ活用を通じて人事業務を改善していきたいと思っています。社員数の多さゆえにデータ数も多いため、ピープルアナリティクスを使って価値を発揮できる機会も多いだろうと感じています。
データを集計・分析して可視化したものを「ファクトブック」と言いますが、鹿内さんからは「ファクトブックを見ると、いろいろ想定される分岐の数を減らせるよ」と教えていただきました。まずはデータを丁寧に集計し、ファクトブックを作り込むところから始めていきたいと思っています。
内堀さん:私は現在特定の企業に属していないため、データ活用ができるかはクライアント次第になります。ただ機会があればデータをもらって分析することで、より確からしい意思決定につなげていきたいです。定性面だけでなく、定量的なデータをもとに課題解決を提案するなど、データ活用をより意識していきたいと考えています。
──ピープルアナリティクスを活用して取り組みたい具体的な人事施策はありますか?
美馬さん:エンゲージメントサーベイ関連でよく聞く話として、サーベイのデータを取ったけど手つかずのまま、というものがあります。結果、社員からも「何もしないならサーベイを取らないで」という声が上がってしまうのです。だからこそ、まずは身近な改善の施策を動かすことから意識していきます。サーベイを実施し、レポートにまとめるだけでは何も生み出しません。そこから課題を見つけ、行動していくことを大事にしていきます。
内野さん:採用して終わりではなく、採用した方が活躍してくれることが私たち人事の目指すゴール。入社者も会社もハッピーであることが一番大事なことです。とはいえ採用人数の多い会社の場合、KPIの採用人数ばかりを追いかけてしまい、入社後の活躍は他部署任せということも少なくありません。そこに横串を通せるのがデータではないかと思うので、横並びでデータを見るところから議論を始めていきたいです。
──データドリブンなアプローチが人事業務や組織マネジメントにもたらす変化について、みなさんのお考えを教えてください。
内堀さん:事業会社の人事をしていた時、退職アラート分析や配属先決定にピープルアナリティクスを活用できないかと考えていたことがあったんです。
退職アラートで言えば、退職リスクを事前に把握し、対策できないかと経営陣から相談されたことがあったんです。その際、例えばSlackへの投稿頻度や勤務時間の乱れなどのデータから退職者の傾向を読み取れないかと考えたことがありました。もちろん組織では人の入れ替わりは一定あるものの、データから退職リスクを判断できれば、事前にいろいろな手を打つことができますから。
社員の配属先決定でも、例えば「ここに配属したい、させたくない」「今の環境でもっと頑張らせよう」など、上長や役員などの個人的感情に左右されやすいですよね。こういった領域をもっとデータドリブンにできれば、より確からしい意思決定ができるようになり、イキイキと働く社員も増えていくのではないでしょうか。
人事は正解がなく、答えが分からない領域ゆえに、複数名で会話をすると定性面で判断をする場面が多くなりがちです。それはそれで大事なのですが、ピープルアナリティクスを活用することで、社員も会社もより幸せになる意思決定をする確率を上げていけるのではないかと思っています。私は「データに感情を乗せたい」と表現しているのですが、より正解に、より成功に近づくためにもデータを活用していきたいです。
内野さん:数字で語ることができれば、直観的に提案する以上に周りを説得しやすくなりますもんね。
美馬さん:それに加え、副次的な効果が生まれるのも大きなメリットです。目の前の課題解決はもちろん、例えば「この部署にも応用できそう」「実はこんな課題もあるんじゃない」など、カバーできる組織の範囲、課題の範囲も広がっていくからです。その積み重ねにより、事業成長を加速させていきたいと思っています。
ピープルアナリティクスに関心がある仲間と一緒に学んでいけるのが魅力
──ピープルアナリティクスを学んだことで、組織における課題の発見や解決策の提案において、みなさんの考え方に変化はありましたか?
美馬さん:重要性は認識していたものの、実践を通じて学んだことで、改めて重要性を理解できました。このプログラムでの気づきや学びを今後の仕事に活かしていきたいです。
内堀さん:今までもデータを活用していたつもりでしたが、今回のプログラムで、その気になっていただけかもしれないと感じました。ただ活用するだけでなく、何を実現したいかを本気で考え、データを用いた課題の発見や解決策の提案を意識していきます。
内野さん:アウトプットをもって相手と話しアウトカムを引き出していく、データをもとに議論することでより良い結果へとつなげられることに気づきました。こうした学びを活かし、相手ともっと話し合う機会を大事にしていきたいです。
──ピープルアナリティクスの学習をこれから始める人事担当者に対して、何かアドバイスはありますか?
美馬さん:今回のプログラムは、未経験からでもチャレンジできるのが大きな魅力。私はPythonの知識ゼロの状態からのスタートでしたが、たくさん助けていただきながら学ぶことができました。興味があるけど一歩を踏み出せていない、未経験だからなかなかチャレンジできる場所がない、と考えている方はぜひ挑戦してみてほしいです。
内堀さん:ピープルアナリティクスに興味のある方が集まってきていますから、一緒に学びを深めたり、情報交換ができたりすることは貴重な機会ですよね。
美馬さん:一人で勉強するより、誰かと一緒のほうが挫折しにくいですしね。
内堀さん:はい。数年前に一人でピープルアナリティクスの情報収集をしていた際は、けっこう苦しかったです。日々の業務ではなかなか横のつながりが持てない方でも、ここに来ればピープルアナリティクスという共通言語のもとにコミュニティに参加できるのは魅力だと思いますよ。
内野さん:このプログラムで学べること、ピープルアナリティクスでできることはたくさんあります。ただ、その裏には細かなデータ処理など泥臭い作業も多く、学びの過程で辛くなることもあるでしょう。だからこそ、なぜ学びたいのか、ピープルアナリティクスによって何を実現したいのかという、動機を明確にすることを大事にしてほしいですね。
──今後、人事データを活用した人的資本マネジメントにおいて、挑戦したい領域や目標があれば教えてください。
内堀さん:人事データって、ものすごくたくさんありますよね。労務関連なら勤怠や給与、残業時間、採用関連なら面接や適性検査の結果などあらゆるところにデータがあるのに、各領域で個別に管理していて、それぞれを接続して活用することはなかなかできていません。でも、あらゆるデータを一つのデータベースに統合し、それを分析していけば、人事が会社をより良くしていけることってまだまだあるのではないでしょうか。そんな壮大な目標も描きながら、まずは目の前の課題と向き合っていきたいと思っています。
内野さん:一人の人事として、従業員のみなさんが満足度高く働けているかはとても気になるところです。だからこそ、採用、育成、配置、評価などそれぞれのフェーズで、一人ひとりが満足度働ける状態をつくっていきたい。その際にデータを活用し、見えにくい部分をうまく拾い上げていければと思っています。
まずは目の前の仕事からピープルアナリティクスの活用を進めていくことでノウハウを蓄積し、ゆくゆくは会社という枠を超えて横展開していけたらと考えています。
美馬さん:「人的資本経営」という言葉をよく聞くようになりましたが、実際に人材=投資材料として経営ができている会社はまだまだ少ないのではと感じています。そういった企業が一社でも増えていくためにも、まずは身近なところから人事データを活用して課題解決をすることを大切にしていきたいです。最初は小さな火かもしれませんが、それを積み重ねることで大きな火にしていきたいですね。
編集後記
従来、人事はKKD(経験・勘・度胸)によって施策を実行することも少なくありませんでしたが、現在は様々なデータが取得できるようになった一方で、データを活用してより有効的な施策を立案・実行することの難しさも同時に人事の壁となってきています。また、人事に限らずですが社会人がリスキリングの機会を作りづらいという話もよく聞きます。こうした背景からコーナーでは、今回の「ピープルアナリティクス実践キャンプ」をはじめとする取り組みを通じて、データドリブンな人的資本マネジメントや人事施策の立案に取り組む人事の支援をしていきたいと考えております。また2回目、3回目と引き続きキャンプの実施をしていく予定ですので、その際はご応募お待ちしております。
共同開催企業である株式会社シンギュレイトのnote記事でもインタビュー記事を掲載中。
「ピープルアナリティクスを学ぶ理由は?人事がデータサイエンスを学び得たこと、今後のビジョンを聞く!![ピープルアナリティクス実践キャンプ第1期生 インタビュー]」
ぜひあわせてご覧ください。