「選択的週休3日制」の導入目的・パターン・注意ポイントを解説

ファーストリテイリングやLINEヤフーなど大手企業がすでに導入している「選択的週休3日制」。2024年12月には東京都も2025年度から導入する方針を表明するなど、官民問わず様々な組織で関心が高まっています。
今回は、売上高数兆円を超す大企業から株式公開を目指すベンチャー・スタートアップ、事業承継を行う中堅・中小企業まで幅広い支援経験を持つトランスフォーム合同会社 代表の片岡さんに、「選択的週休3日制」の概要から導入事例にいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
片岡 匠(かたおか たくみ)/トランスフォーム合同会社 代表
大学卒業後、株式会社リクルートにて法人営業に従事。その後、ベンチャー企業にて営業担当・人事担当責任者を務めた後、マーサージャパンにてシニアマネージャー、コーン・フェリー・ジャパンにてアソシエイトプリンシパルとして企業の組織・人事変革およびコーポレートガバナンスの強化支援を多数リード。2020年に独立し、トランスフォーム合同会社を設立し代表に就任。現在、複数企業の取締役会や指名・報酬委員会へのアドバイザーを兼務。2022年よりiU情報経営イノベーション専門職大学客員教授に着任。
目次
「選択的週休3日制」とは
──「選択的週休3日制」の概要について、行政の動きも含めて教えてください。
「選択的週休3日制」とは、その言葉通り個人の意思によって選ぶことが可能な週休3日制の働き方を指します。以前から一部の企業(あるいは特定部署)が「選択的週休3日制」を導入していましたが、日本政府がその導入判断を個人に委ねる形で多様な働き方をさらに推進させようとしています。
2021年6月に日本政府が閣議決定した『経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針)』に「選択的週休3日制」が盛り込まれたことで注目度が上がりました。この「選択的週休3日制」は働き方改革のフェーズⅡとして位置付けられています。

働き方改革のフェーズⅠは主に労働時間の削減が目的となっており、残業時間の上限規制や5日間の年次有給休暇の取得の義務化などが実施されてきました。フェーズⅡでは、働き方改革の継続に加えて新たな段階へ入っていくことが宣言され、その中で「選択的週休3日制」は『育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用などが考えられる』と説明されています。
もともと日本は、他の先進国と比べて労働時間が長い割に生産性が低いと長年指摘されています。日本政府が「選択的週休3日制」導入を推進する背景には、個人の多様な働き方をより一層推進して能力開発や活躍機会を増やすだけでなく、企業側にも週休日3日制を制度として定着させることで従来よりも生産性を高める後押しし、ひいては日本企業の収益力の底上げにつなげたい考えがあります。
このような政策的な意図があるため、企業の規模や地域、業種などを超えて、広く日本企業全体で「選択的週休3日制」の導入が今後進んでいくと考えられます。
「選択的週休3日制」の導入目的とパターン
──「選択的週休3日制」を企業が導入する目的について、その導入パターンと合わせて教えてください。
今後ますます日本の労働人口は減り続けるため、中長期的には多くの企業で労働力の確保が重要課題となっていきます。それにより人材の獲得競争も今以上に激しくなることから、優秀な人材を惹きつけるためにも企業自身の魅力を高める努力は欠かせません。その点で「選択的週休3日制」を導入している企業とそうでない企業では、多様な働き方の受容度の観点でも大きな差が出てきます。先駆けて「選択的週休3日制」を導入している企業は、こうした将来を見据えて先んじて対処している、もしくはすでに課題が顕在化しており、いち早く対応しているケースが多いと感じています。
なお、現在の「選択式週休3日制」の導入形態は以下3パターンがあります。

(1)報酬・総労働時間が共に減る『報酬削減型』
労働時間数は1日分減少、1日の勤務時間は変わらず、報酬額は減額される点が特徴。
(2)報酬・総労働時間ともに変わらない『圧縮労働型』
週あたりの労働間数は変わらず、1日の勤務時間は増加、報酬額は変わらない点が特徴。
(3)報酬は変わらずに総労働時間が減る『報酬維持型』
労働時間数は1日分減少、1日の勤務時間は変わらず、報酬額は変わらない点が特徴。
上記3つのうち、日本企業の多くが採用しているのは『(1)報酬削減型』と『(2)圧縮労働型』です。どちらも報酬と労働時間が相関している点で共通しています。これらを現状の日本企業の多くが採用している事実から、「選択的週休3日制」の導入により労働時間が減少し、結果的に生産性が下がることを懸念している様子が見て取れます。
一方で、『(3)報酬維持型』は報酬を変えずに総労働時間のみ減少させます。この形態は従業員にとって望ましいものです。日本企業の多くが導入している『(1)報酬削減型』と『(2)圧縮労働型』のパターンは、制度導入時期の苦肉の策として選ばれている側面があり、導入企業もその課題は認識しているはずです。仮に『(1)報酬削減型』と『(2)圧縮労働型』のパターンで「選択的週休3日制」を導入したとしても、将来的には『(3)報酬維持型』を実現できるように生産性をいかに高めていくかが課題となります。

「選択的週休3日制」導入時の注意ポイント
──「選択的週休3日制」を導入する際に注意すべきポイントにはどのようなものがあるでしょうか。
前述した3つの導入形態のどれを採用するにしても議論となるのが、『処遇や評価の観点からどのような人事制度がふさわしいか』という観点です。
現在の日本企業で『(3)報酬維持型』が敬遠されるのは生産性の減少を危惧してのことだと指摘しましたが、もう1つ大きな理由があります。それは、労働時間を減らした際に個人の働きぶりを評価するだけの人事制度が多くの企業で導入されていないことです。つまり、『(3)報酬維持型』の導入を目指すのであれば、労働時間とは別の概念で適切に評価・処遇を行うための人事制度の整備が必須になります。
また、『(1)報酬削減型』と『(2)圧縮労働型』は労働時間と報酬が相関するため、仮に「選択的週休3日制」を選択する社員がいた場合には総労働時間に合わせて報酬を下げたり、勤務日の労働時間を長くして週休2日制を選択している社員との不公平感を除こうとしたりします。これは一見すると制度の公平性を確保しているように見えますが、「選択的週休3日制」の中で成果を挙げている社員からすれば、高い成果を出しているにもかかわらず、労働時間が短いだけで報酬が下がってしまうことに逆差別のように感じることもあるはずです。いずれにせよ、「選択的週休3日制」の導入には、既存の人事制度の在り方そのものを見直す必要があると考えています。
さらに、現代の日本社会では週休2日制を前提として設計されているものが多くあり、その点も導入の懸念となる可能性があります。例えば、認可保育園への入園問題です。多くの自治体では入園の際に点数制を採用しており、点数の高い子どもが優先的に入園できる仕組みとなっています。この点数の計算基準は、主に両親の労働時間や労働日数によって定められています。両親ともにフルタイムで週5日以上勤務する場合が最も点数が高く、反対に労働日数が減ると点数が下がってしまうケースが大半です。
そのため、「選択的週休3日制」を選択したことで子どもが保育園に入園できなくなってしまうリスクも考えておかねばなりません。これらの事項に関しては国や自治体でも今後制度の見直しが進む可能性はありますが、現行制度としては考慮すべき項目です。
「選択的週休3日制」を導入している企業事例
──「選択的週休3日制」をすでに導入している企業の事例について教えてください。
すでに「選択的週休3日制」を導入済み、または導入を表明した主な企業例について、一部の業界において例示します。
<企業例(一部業界)>
■製造業:日立製作所、パナソニックホールディングス、NEC
■金融:みずほフィナンシャルグループ
■IT:ZOZO、LINEヤフー、日本マイクロソフト
■アパレル:ファーストリテイリング
■物流:佐川急便
ファーストリテイリングでは、転勤のない地域正社員を対象に通常のフルタイム勤務(8時間×5日=週40時間)を1日10時間×土日を含む週4日勤務に代替えする形で、従来と報酬は変わらずに「選択的週休3日制」を選ぶことができます(前述した『(2)圧縮労働型』に該当)。
佐川急便では、セールスドライバー向けに「選択的週休3日制」を導入しています。週休2日か3日かは個人が選択可能です。1日あたりの労働時間を増やして報酬を維持することができます。前述した『(2)圧縮労働型』に該当)。
なお、私が支援したIT企業ではIPO後のさらなる成長促進(組織・個人の生産性向上や優秀人材の採用・リテンション)を目的とした人事施策として「選択的週休3日制」を導入しました。その際、生産性向上を実現するために「選択的週休3日制」と平行してジョブ型の人事制度(個人の役割を明確に規定し成果を測りやすくするもの)の導入も実施しています。個人の期待役割の明確化と、労働時間に縛られない適正な評価を行える仕組みを整えた上で、前述した『(3)報酬維持型』の「選択的週休3日制」を導入しています。
■合わせて読みたい「働き方に関する制度」関連記事
>>>ハイブリッドワークとは?リモートワークの先に生まれた組織の生産性を上げる方法
>>>「勤務間インターバル制度」努力義務化の概要および導入・運用方法とは
>>>「高度プロフェッショナル制度」を組織合意のもと導入するためには
>>>「子の看護休暇」の取得促進により、働く環境整備と企業成長を両立する
>>>「ワークシェアリング」で貴重な人的資本を活かす方法とは
>>>「社内副業」を効果的に導入するために理解したい課題と対策
>>>「短時間正社員制度」による組織影響と導入方法について解説
>>>「正社員登用制度」を活用して社員の定着と生産性向上を実現するためには
>>>「ABW(Activity Based Working)」はフリーアドレスとどう違う? ポイントを導入経験者が解説
>>>「スーパーフレックス制度」とは? 導入方法や注意点を事例と共に解説
>>>「ワークライフインテグレーション」で事業成長と私生活の充実両方を達成させる組織づくりとは
>>>「転勤廃止」で変わる転勤制度。見直される理由と従業員への影響
>>>「就業規則の変更」の時に気をつけるべき流れとポイントとは
編集後記
『労働人数×時間』の考え方だけでは、これからの労働人口が急速に減っていく時代には対応できません。人数や時間ではなく成果(≒生産性)を基準に評価を行うことは、週休3日制の導入に関わらず求められるようになるはずです。今回のテーマである「選択的週休3日制」の導入検討をきっかけに、人事制度の今後についても検討していきたいものです。