「対話」を通じて組織の未来を創造する“組織開発するマン”の話
今回はリレーインタビュー企画の第3弾として、前回記事の吉成大祐さんよりご紹介ただいた小金蔵人(こがね くらと)さんにお話を伺いました。
現在、ZOZOの組織開発を担当している小金さん。前職ヤフーでの1on1に関する多数の発信をご覧になった方もいるかもしれません。そんな小金さんが組織開発に足を踏み入れたのは、なんと40歳になってから。
今回は、小金さんがなぜキャリアチェンジをして組織開発に取り組もうと思ったのか、またヤフーやZOZOではどのような形で組織開発に取り組んでいらっしゃるかについて、詳しくお話をお聞きしました。
<プロフィール>
小金 蔵人(こがね くらと)/株式会社ZOZO 技術本部 技術戦略部 組織開発ブロック ブロック長
大学卒業後、味の素株式会社に入社し、営業マーケティングに従事。 2006年にヤフー株式会社へ転職し、新規ビジネス開発・サービス企画のリリースを経験。2016年に自らの希望で人事に異動後、全社の人材開発・組織開発を担当。1on1ミーティングをはじめとしたピープルマネジメントツールの推進や管理職のマネジメント支援と併せて、現場の組織課題解決をサポート。2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現株式会社ZOZO)へ転職し、現在はZOZO全社およびクリエイター部門の人事企画・人材開発・組織開発に携わっている。
目次
キャリアを変えて「組織開発」にチャレンジした理由
──小金さんは組織開発を担当されているということですが、そもそも組織開発とは何でしょうか。
組織開発にはいろいろな定義がありますが、私は「人の集団が、共通の目的に向かうチームになるための働きかけ」と考えています。会社という船を各々が思い思いに漕ぐのではなく「宝島を目指す海賊船」になっていくイメージです。これを主に人事施策と合わせて進めていく仕事と捉えています。
──40歳からのキャリアチェンジは相当な勇気が必要だったと思いますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。
きっかけは当時の上司からもらった「運命のフィードバック」でした。
新卒から40歳までの18年間、営業・ビジネス開発・サービス・プロダクト開発(PM)とキャリアを重ねて、38歳からはマネージャーも経験させてもらい、ビジネスサイドの職歴とマネジメントというタグを自分につけられたかなと思っていた時のこと。上司から、「小金さんは何をさせても及第点。でも全身全霊で取り組んでいるようには見えない。今後何の領域で一流になりたい人なの?」と聞かれました。「このままなんとなくキャリアを重ねて、それなりに評価されて生きていくのだろう──」その甘い考えを上司に見透かされていたのです。それがきっかけとなり、「自分が人生後半戦をかけて取り組めるものって何だろう」と考え始めました。
そこで改めてこれまでの仕事を振り返ると、一緒に働く人や組織が同じ目的に向かって一丸となる瞬間が好きだったことに気づきました。そして、「この思いを仕事内容に置き換えると何の仕事になるんだろう」と考えを整理すると、「組織開発」に辿りつきました。そこで、自ら志願して人事にあった組織開発の専門チームに異動させてもらいました。
──まさに今後の人生を考えた上での決意だったんですね。
そうですね。ただ最初の1年は本当に大変でした。
というのも、人事という仕事には、「青臭い部分」と「血生臭い部分」の両極があって、全員活躍とか人材育成を掲げる一方で、冷静に評価や処遇の決定をサポートしている側面もある。最初はそこが見えてなかったこともあって、「人事部門で行う組織開発や人材開発ってそんなに甘いもんじゃないよ」ってことを徹底的にフィードバックしてもらう40歳の夏を過ごしました。
でも、どんなに落ち込むことがあっても「やっぱりこの仕事がやりたい」と心の底から思えていたし、退路を断ってがんばるしかないなと。そこからは新しいことを学ぶと同時に意識的に「アンラーニング」(今まで得てきた知識や価値観を捨てて新たに学び直すこと)もしながら、「組織開発」というテーマと取っ組み合って、ヤフーとZOZOでキャリアを重ねて今に至ります。
「1on1」を軸にしたヤフー時代の組織開発
──ヤフーの人事施策というとやはり「1on1」が有名ですが、小金さんはどんな取り組みを進められていたのでしょうか。
おっしゃる通り、私が人事に異動した当時、「ヤフーの1on1」がすでに型としては完成していて、1on1を軸になって各種人事施策が進んでいました。現場での日常的な観察や目標管理、キャリア開発なども1on1を中心に行われていたので、私の仕事の1つは、この「1on1マネジメント」が健全に回るように研修・人事施策強化を行うことでした。
そしてヤフーでは1on1と同時に組織開発にも力を入れ始めていました。1on1は「上司と部下の定期的な対話の場」ですので、一般的には「人材開発の取り組み」としてイメージする方が多いかもしれませんが、ヤフーでは「組織開発の仕組み・仕掛け」としても1on1を捉えていました。
全社で1on1を実施するということは、経営からメンバーまでが縦の糸でつながるということです。その状態で週1回の対話を続けると、どれだけ巨大な組織でも縦のラインで血が流れるようなコミュニケーションが生まれて、経営メッセージのカスケードダウン(※目標や戦略が、部署や社員へと細分化されていくこと)が常態化していきます。
これが基本になると、組織の変化への対応スピードは急激に高まります。運動前のウォーミングアップが常にできている状態になるからです。ヤフーは大きな組織ですが、経営体制の変更やコロナ禍でのリモートワーク移行などをスピーディーに進められたのは全社での1on1が機能していたからだと私は思います。
そんな環境の中で「人材開発のための1on1」とともに、「1on1を軸にした組織開発」に取り組んでいく。これが私の人事領域におけるもう1つのテーマになりました。
──「1on1を軸にした組織開発」ということですが、具体的にはどのようなことに取り組まれていたのでしょうか。
具体的には、「各部門のマネージャーや推進役の人が、組織開発の視点をもって自組織の課題発見・解決を行っていくための支援」を社内研修・人事施策・事例共有などを通じて行っていました。
1on1によって組織内での対話と合意形成のベースができていたので、私はここに「組織課題の発見」と「解決策の実行」に繋がる「対話のツール」を提案していきました。
「組織課題の発見」には、上図の「氷山モデル」を活用しました。海上に出ているのは全体の10%程度で残りの90%は海中に沈んで見えづらい氷山のように、組織課題も見えている部分はごく一部。目に見えづらい部分を探って手を打っていかないと根本解決は望めない、という思考のフレームワークです。
例えば「組織の一体感がない」という問題があった時に「じゃあ皆で飲み会だ!」となることはよくありますよね。しかし、このフレームワークを使って対話すると「そもそも皆で目指すべき目標がわからない」という根本原因が見つかったり、打ち手が変わったりします。
また「解決策の実行」には上図の「3つのステップ」を活用しました。目指す組織の状態に向けてひとつの打ち手で済むことはほとんどないので、最低でも3つ程度の段階的な取り組みを考えてもらうようにしました。逆に3つ以上の解決策が出た場合には、優先度の高いもの3つに絞るという意味でも有効なフレームワークです。
先ほどの飲み会の例で目指す状態は「一体感のある組織」のはずです。その解決方法はいろいろ出てくるかも知れませんが、まずは部門長が大方針を示すことやマネージャーがその方針を浸透させることが優先度の高い打ち手となり、その上でならば懇親のイベントも有効になるかも知れない、という整理ができます。
いずれもシンプルなフレームワークですが、現場で組織開発を進めるための「対話のツール」としてマネージャーや推進役の人に使ってもらいました。そしてこの「氷山モデル」と「3つのステップ」で可視化された各部門の組織課題と解決策のログをデータとして蓄積・分析して「ヤフーの組織開発事例」としてまとめ、それをまたマネージャーや推進役の人に展開していく、といったサイクルを回しました。
起こっている事象から、解決するべき課題をちゃんと見極めて、より効果的な部分から取り組む。それを「対話と合意形成」を通じて進めていく。これが組織開発としては当たり前の基本動作となります。ヤフーには1on1という対話のベースがあったからこそ、効果的に進めていくことができたのだと思います。
「社員との対話」からスタートしたZOZOの組織開発
──ネクストステップとしてZOZOにジョインした背景は?
組織開発は会社のフェーズによってやるべきことは変わりますし、それが自分がやりたいこと・得意なことと合致するかどうかも考える必要があります。私の場合、これから本格的な組織作り・制度作りに入っていくようなフェーズの会社で組織開発の経験をもっと積みたいと思うようになっていました。
そんな時にZOZOテクノロジーズと出会い、まさに経験したいフェーズだと感じて入社を決意しました。当時のZOZOテクノロジーズは400名規模でマネージャーのマネジメント力が重要になる組織フェーズ。これまでの知見を活かして新しいことにもチャレンジできそうな点が魅力でした。
また私の入社に合わせて、組織開発の専門チームの立ち上げを予定してもらっていたことと、一人目のメンバーとして名乗りを上げてくれている仲間がいたことも、大きかったです。組織開発を始動するのに最高の環境が整っていたことも大きな後押しになりました。
──入社後はどのような形で組織開発を進めていきましたか?
入社当初に、組織開発として期待されたのは、教育・評価・制度企画・コミュニケーション施策など、採用・労務・総務以外の領域でした。
私はコロナ禍で全スタッフがリモート勤務している時期に入社したので、上記を推進するためには、まずは「私が会社を知る取り組み」と「会社が組織開発を知る取り組み」の両面が重要だと考えました。
1点目の「私が会社を知る取り組み」として、社員ヒアリング活動を始めました。幅広い職種や社歴のスタッフを対象にしたヒアリングを定期的に行うことで、私自身の会社に対する理解度・解像度を上げるための取り組みです。働きかける組織のことを知らずに組織開発はできないので、このヒアリング活動を通じて会社の良いところ(Good)や伸びしろ(Motto)をひたすら集めていきました。
この活動はいわば組織の観察であり、これだけで何かを解決するものではありませんが、やり続けていくことが重要だと考えています。組織開発は研修や合宿などを担当する仕事だと思われることも多いですが、組織を観察し、組織の声に耳を傾けて、組織を解像度高く理解していなければ「なぜその研修や合宿をやるのか」を言語化することはできません。How(手段や方法)ばかりが先行しがちな組織開発ですが、ちゃんとWhy(目的)から考えられることが組織開発担当者としては最も重要だと思っているので、この活動はZOZOグループの組織再編後に会社の規模が大きくなった今でも、継続しています。
2点目の「会社が組織開発を知る取り組み」については、「いま取り組んでいること・取り組もうとしていることが、組織開発の取り組み全体の中でどの部分にあたるのか」を経営や人事関係者に分かりやすく共有しながら施策を進めました。活用したのは「GRPI」(グリッピー)というフレームワークです。
①Goal(目指すゴール) ※ミッション・ビジョン・戦略など
②Role(役割分担) ※部署・職種・等級・役職など
③Process(計画・手順・フロー・ルール) ※事業計画・業務フロー・評価プロセスなど
④Interaction(相互の関係性) ※日常の関わり合い・イベント・研修・1on1など
「GRPI」とは、この4つの要素を上から順番に整えていくことで共通の目的に向かうチームになっていく、という考え方です。私が入社した時はちょうど「①Goal」にあたる「VISION・MISSION・VALUES」が新しく言語化されたタイミングでしたので、それを実現する「②Role」(人事制度の等級定義・役職定義)、「③Process」(評価プロセス)、「④Interaction」(研修・1on1・社内イベントの強化)などが必要なタイミングでした。
そこで私は、経営陣や人事関係者に「GRPIの順番に組織開発に取り組んでいきます」「この取り組みはGRPIではこの部分にあたります」と都度共有しながら施策推進をすることで、組織開発というテーマそのものへの共通認識を増やしていく工夫をしました。
──社員ヒアリング活動で組織を知り、「GRPI」でやるべきことを定義していったのですね。2021年10月の組織再編でZOZOの所属となった今は、どんなことに取り組んでいるのですか?
組織の拡大を受けて、直近では以下のような取り組みを行う役割になってきています。
①クリエイター部門のHRBP業務(制度運用・組織課題解決)
②全社の組織開発(社員ヒアリング・社内連携強化・文化醸成)
③全社の人材開発(1on1強化・社員研修の整備)
④全社の人事企画(統一人事制度企画・人事施策強化)
①「HRBP業務」は私がZOZOテクノロジーズに入社してから引き続き取り組んでいる内容です。②〜④「全社の取り組み」については、組織再編に合わせてZOZO全体で歩調を合わせて取り組んでいく必要が出てきた内容です。
ZOZOテクノロジーズは技術力強化のためにZOZO本体から独立していた会社でしたので、組織として統合された今でも、制度や働き方の一部がダブルスタンダードになっており、それらを統一していくことが当面のミッションです。
顧客は経営でも社員でもなく「組織そのもの」
──ここまでお話をお聞きして、組織開発はものすごく範囲が広くて捉えにくいものだと改めて感じました。
全くその通りで、組織開発はその意味するところが曖昧だったり、取り組む範囲が多岐に渡っていたりするので、シンプルに説明するのが難しい仕事だなと思っています。会社の規模や事業フェーズによっても大きく打ち手が変わってきますし、そもそも専任担当や専門チームを立てている会社が決して多くないこともこのテーマの分かりづらさに拍車をかけています。
私にとって「組織開発」とは「経営・人事・現場のちょうど交差点のような立ち位置で、関係者とともに目指す組織を思い描いたり、現状組織の課題発見や解決をするために、必要な対話を生み出し続ける仕事」だと考えています。
この時に重要になるのが「言葉」です。組織開発の領域では「Words create world(言葉が世界を創っていく)」と言ったりしますが、私は「いま社内で語られている言葉」が「いまの組織」をつくり、「こんな組織にしたいと語られる言葉」が「未来の組織」をつくっていくと考えています。
先ほどお伝えした「社員ヒアリング」も「この会社がいまどういう会社に見えているか」「これからどういう会社になっていくべきか」という社員一人ひとりの考えや想いを「言葉」として集めていくことに繋がります。こうして集まった「組織内で語られている言葉」が組織開発を進める上ではとても重要なヒントになります。
人材開発のゴールが「その人がなりたい・なるべき自分になってもらうこと」なのと同じように、組織開発のゴールは「その組織がなりたい・なるべき組織になってもらうこと」だと思うんです。そのために「組織の中で語られている言葉」を集めながら「組織のハードな側面(戦略・制度・仕組み)」と「組織のソフトな側面(対話・コミュニケーション・関係性)」を整えていく。組織開発はそんな「対話と合意形成を積み重ねていく仕事」だと考えています。
──組織自体が「なりたい組織」を実現するために、誰よりも組織の声を聴き、目指す姿に向けてハード面とソフト面を両輪で回していく。まさに組織のコーチのような存在なんですね。
そうありたいと思っています。組織開発の顧客は経営でも社員でもなく「組織そのもの」だと考えていて、今の私にとってそれはZOZOという会社そのものだからです。また、組織開発の取り組みはいずれも組織開発の専任担当・専門チームだけでできることはほとんどありません。経営・人事・マネージャー・社員と連携して進めることがほとんどですし、むしろ私たち抜きに取り組みが続いて行く状態をつくることの方が重要で、そのためにも「コーチ役」としての自覚を持っていることが大事だと思っています。
組織の理想の姿も課題もその解決策も、すべて「いまここ」の対話と合意形成から生み出していく──そういった気概を持って組織開発に取り組んでいきたいと常々考えています。
私は自分の役割を「組織開発するマン」と表現することがありますが、本当のところは「組織開発する仲間を増やすマン」でないといけないとよく考えます。そして「会社をよりよい場に変えていくのは自分たちだ」と考える人を増やして、実際に「よりよい場にする取り組み」が増えていく。冒頭お伝えした「組織が宝島を目指す海賊船になる」ということはそういう状態なんだと思います。
編集後記
「組織開発について話すと、いつも説明しきれずもどかしい気持ちになる。だからこそ生涯かけてやりたいテーマなと思えるのかもしれませんね」そう楽しそうにインタビューに応えてくれる小金さんを見て、組織開発の奥深さや意義を感じることができました。
組織開発は小金さんのような専任の方だけが取り組むテーマではありません。社員1人ひとりが組織開発の視点を持ち、「なりたい組織」に近づくための行動を取ることができれば、より早くGoalに到達することができるかもしれません。
[cta id=’35’]
[cta id=’38’]