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人事のノウハウ

変化の波を乗りこなし成果を導く力「キャリア・アダプタビリティ」の高め方

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近年「終身雇用の崩壊」が進んできたことで、一人ひとりのキャリア自律の重要性が叫ばれるようになりました。そんな中「キャリア・アダプタビリティ」というワードが少しずつ注目を集めています。

やや耳馴染みのない言葉であり、その概念を正しく理解し活用している企業や人事担当者はまだまだ多くありません。そこで今回は、組織開発の領域でファシリテーター・カウンセラー、コーチとして活躍する鴻池 亜矢さんに、キャリア・アダプタビリティの定義と活用方法をお聞きしました。

<プロフィール>
鴻池 亜矢(こうのいけ あや)/Office 6/8代表
通信キャリアにてエンジニア・サービス開発を担当した後、人材紹介会社でのキャリアコンサルタント、人材・組織開発コンサルティング会社を経て独立。現在はOD(組織開発)ファシリテーター・カウンセラー、コーチとして、Organisational TA(組織向け交流分析)をベースにダイバーシティ&インクルージョンを中心とした組織開発・個人の支援を実施している。

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キャリア・アダプタビリティとは

──キャリア・アダプタビリティとは何でしょうか?定義について教えてください。

キャリア・アダプタビリティとは、「環境変化に合わせて自身のキャリアを適応させられる能力(キャリア発達のための準備状態)」のことを指します。キャリア研究の第一人者であるドナルド・E・スーパーが提唱した考え方で、その後米国キャリア心理学会の学者マーク・L・サビカスによって確立されました。

提唱者であるスーパーは、まず思春期における「キャリア発達のための準備状態」について考察し、それを「キャリア成熟度」と名付けました。子供の場合、年齢が上がるにつれて社会(学校・家庭など)との接点も増え、キャリア発達に関する情報や自分に対する期待を理解するプロセスを経て、キャリア成熟度も上がっていきます。

一方、社会人となり職業を持った後にもこの「キャリア発達のための準備状態」は存在しており、スーパーはそれを「キャリア・アダプタビリティ」と呼びました。子供と違い就業経験がある大人の場合は、単純に年齢が増せばキャリア発達のための準備状態が育つ、という訳ではありません。その人の習慣や仕事への向き合い方、属している組織や職種などたくさんの影響要素があります。そのためキャリア・アダプタビリティは「個人差が大きい」というのが定説です。

そもそも「アダプタビリティ」には「適応」という意味があり、「環境に自分を合わせる/適応させる」というニュアンスが先行しがちです。しかし個人的には「自律的にキャリアを形成している感覚を持ちつつ、世の中の流れに乗る」といったニュアンスの方がより適切にキャリア・アダプタビリティを表現できていると感じます。もしくは「キャリア・サーフィンを楽しんでやっていくための基礎力」と言い換えた方がよりイメージしやすいかもしれません。

──キャリア・アダプタビリティが近年注目されるようになった背景には、どんなものがあるのでしょうか?

“VUCAワールド(※)”とも言われる外的変化の激しさが大きく影響していると考えられます。

※VUCA・・・Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字で、現代のビジネスやキャリア環境を表すもの。

高度成長期〜バブル期くらいまでは、市場の変化や見通しはある程度安定しており、技術開発のスピードも現在ほど速くはありませんでした。そのため直線的に年々発達する「キャリア成熟度」を軸として、年次ごとに求められるレベル感やキャリア発達の道筋も年功的に可視化することができました。

しかし、現在の外的変化が激しい世界では、数年後にどのようなスキルを持ち、どのような能力を発揮できる必要があるのかを断言することは至難の業です。実際に2020年に起こったCOVID19の世界的大流行は私たちにリモートワークのためのセルフマネジメントや、オンラインツールを使いこなすスキルを要求しましたが、その必要性や緊急性を前年に予測しキャリア発達準備をできていた人はほとんどいないはずです。

COVID19は少し特別な事情だとしても、世界や市場の変化が年々激しくなっていることは確かです。そんな時代を生き抜くためには、対症療法的にその時々に必要なスキルを慌てて身につけるのではなく、変化に対応しながら自らのキャリアを自在に創っていける基礎力としてのキャリア・アダプタビリティが重要である──そんな考え方が時代背景も相まって広まってたと考えるのが自然な流れでしょう。

キャリア・アダプタビリティが高い人の特徴とパフォーマンスとの関係性

──「キャリア・アダプタビリティ」が高い人とは、どのような要素を持った人なのでしょうか。

キャリア・アダプタビリティの概念を確立させたマーク・L・サビカスが提唱したものに、キャリア・アダプタビリティの「4つのディメンション(次元)」があります。

① 関心(Concern)
② 統制(Control)
③ 好奇心(Curiosity)
④ 自信(Confidence)

サビカスは、キャリア・アダプタビリティの高い人、つまり変化に対応しながら自分のキャリアを発達させていくことができる人は、この4つの要素を高く持っていると言っています。この4つについてそれぞれ詳しく述べると以下の通りです。

① 関心(Concern):自分の将来のキャリアに対して関心を持つ

4つのうち最も重要なのはこの要素です。予測不能な世の中だからといって、「自分のキャリアなんてどうにもならない」と投げやりになってはいけません。自分のキャリアをどうしていくかについてしっかりと考えることが何より重要です。そのためには、過去の自分のキャリアと、現在向き合っている仕事とその感覚、それを踏まえて将来をどうしていきたいかなどについて、答えは出なくとも自分に常に問いかけることが必要です。

② 統制(Control):将来のキャリアについてのコントロール力を高める

自分のキャリアをある程度自分でコントロールできると感じられているかどうかがControlの鍵です。もちろん、自身のキャリア発達・形成のすべての要素をコントロールすることはできません。しかし、自身のキャリア発達に責任を持とうとする姿勢は非常に重要です。自分が影響し得ない範囲や仕方がないことも認識しつつ、できることはやろうというスタンスが変化への対応を機敏にしていきます。

③ 好奇心(Curiosity):自己の可能性を探究する好奇心を持つ

この点は、他の多くのキャリア理論でも重要視されているポイントです。自分・他者・社会・組織・仕事などに対しての飽くなき好奇心が、あらゆる情報・機会・人脈など自分の「資本」となる要素を引き寄せます。そしてこの「資本」の充実は、自然とキャリアの選択肢を増やし、意思決定の効果性を挙げることにも繋がります。
ここでのポイントは、「情報を持たなければ」「人脈を作らなければ」と義務感で対応するのではなく、あくまで自然な好奇心に沿わせて「資本」作りを習慣化させることです。

④ 自信(Confidence):自分の大きな志を追求する自信を強める 

この点は②統制(Control)とも関連する要素です。シンプルに言うと「自分のやりたいことに対して、困難を乗り越えてでもやっていける感覚を持っている」状態のことを指します。自分に対する一定の信頼を持つことで、変化する社会や組織の中でも“心理的な安定感”を持って自分のキャリアを発達させていくことができます。

これらの4つの領域を高く持っていくための態度・信念・能力を育て、開発できている人のことを「キャリア・アダプタビリティが高い人」と定義しています。

この4つが高い人は、自ずと自身のキャリアを考え、自信を持って行動し、チャンスを引き寄せてキャリアを切り開いていくことができます。また、どこの部署やポジションに行っても「そこで働く意味」を常に考えており、かつ好奇心も旺盛なため、自分のキャリアを現在の状態と関連付けて、仕事への向き合い方を建設的な方向に向けることができます。

このように、どのような環境に置かれても自分を信頼し、自分のキャリアを楽観的かつ好奇心を持って見つめることができている人は、1つひとつの行動に自信と確信を持っています。すると結果的にパフォーマンスも高まり、周囲から信頼されるようになるという訳です。

キャリア・アダプタビリティを高める方法

──キャリア・アダプタビリティを高めるためにはどのような取り組みが有効でしょうか? 

個人・企業のそれぞれの視点からできることを整理してみました。

個人としてできること

① 振り返りの習慣化による「キャリア資本」作り

キャリアは日々の仕事の積み重ねで形成されていきます。しかし、振り返らなければこれまでに得た知識や経験、感じたこと考えたこともすべて右から左に流されてしまい、自分の中に残りません。経験から学んだことを蓄積してキャリアに活かせる「資本」を創っていくためには、定期的に以下のことを振り返る必要があります。(できれば毎日、難しければ週1回や月1回でもOK)

・自分にとって新しい仕事や出来事はどのようなことがあったか?
・自分がうまくできたことはどのようなことか? またそれはなぜできたのか?
・印象的だったこと、面白いなと感じたことはどのようなことか?
・次の期間(日、週、月)をどのように過ごしたいか?

短い質問ですが、こうして自分ができたことを積み重ねていくことで、前述した②統制(Control)や④自信(Confidence)の感覚を養っていくことができます。加えて、自分が今どのようなことに関心があるのか、好奇心を持っているのかなども確認・理解することができるようになります。

② 周囲の人からのフィードバックをもらう

1人で自分に対する自信を強めることは、簡単ではありません。もちろん最終的には自分で自分を認める必要はありますが、そこに至る過程で他者の力を上手に借りることはとても重要なことであり、特に自分の長所(能力や性格)を見つけるためには効果的な方法だと言えます。

やり方はシンプルで、「自分はどんな人か」「どんな長所があるか」を、自分の事をよく知っているとあなたが思う相手に聞いてみるだけ。可能なら「さらにどんなところを伸ばすともっと良くなるか」を追加で聞いてみるのもいいかもしれません。自分が信頼している人からのフィードバックであれば、より強い自信につながるはずです。

ただし、このやり方を採用する場合には「適切な心の姿勢」が欠かせません。具体的には、フィードバックはあくまで“相手の見方”であることを認識し、過剰に受け入れたり反発したりせずに「受け取る」ようにするという姿勢です。その姿勢に加え、「もらったフィードバックの内容を日常の振り返りで確認していく」作業も忘れてはいけません。

企業としてできること

① キャリア研修による定期的なプランニング

前述したキャリア・アダプタビリティの4次元のうち最も重要な①関心(Concern)を醸成する方法として、「キャリア研修を実施すること」があります。「関心」の要素を形成するためには、過去・現在・未来をつなげて考えることが非常に有効なため、その要素を入れ込んだ内容にすることをオススメします。

一方で、世代によっては「キャリアは自分ではどうにかできるものではない」という学習性無力感や低い自己効力感を持つ社員の方々もいらっしゃるかもしれません。その場合は、無理に「未来を考えましょう!」と強いるのではなく、自分が大切にしている要素は何か、そしてそれを大切にするためにどのような行動を取ることができるのか、といった「価値」を主軸においた設計にすることで、未来を考えることへの忌避感や無力感を与えずに自分自身と将来のことを自然に考えることができるようになります。

② 上司以外の第三者によるキャリア面談で定期的な振り返りを促進

すでに実施されている企業も多いかもしれませんが、定期的に自身の成長やその後のキャリアを考える機会を提供することは、キャリア・アダプタビリティの形成にも非常に効果的です。

その際に注意するべきは「誰が面談するのか」という点です。上司がキャリア面談を行う場合、上下関係や利害に関わる意図(自分の部署からこの部下を異動させたくない等)がどうしても組み込まれてしまいがちです。日常の振り返りは上司と共に行ってもいいかもしれませんが、ロングスパン(半年や1年)でのキャリア面談に関しては第三者(できればキャリアカウンセラーとしてのトレーニングをされている方)が担当するのが好ましいです。それにより成長度合いを測りやすくなるだけでなく、本人や上司の固定観念がない状態で能力やキャリアを着実に観察しトレースしていくことができるようになります。

③ 社員の「できる感」を醸成する

キャリア・アダプタビリティを育むということは、別の表現をすると「社員1人ひとりが自分のキャリアにオーナーシップを持ち、責任を持って考える状態を作り出す」ということです。

ただ、組織である以上すべての社員のキャリア意向を100%実現することはほぼ不可能です。1人ひとりが責任を持って自分自身の志向・キャリアを考えても、所属企業でそれを実現できないのであれば意味がないのではないか、むしろ「寝た子を起こす」ようなことはせずに離職を防ぐためにもそっとしておくのがいいのではないか、という見方もあるかもしれません。

しかし、そんな中でもできることはあります。それは、社員に「声が拾われる/実現する」という体験を持ってもらうことです。社員のキャリア・アダプタビリティ形成にとっても、健全な組織文化の形成にとっても、一番の敵は「学習的無力感」です。「自分の希望を言っても無駄」「やりたいことを見つけてもどうせ実現は無理」そんな雰囲気がキャリア・アダプタビリティの4つの次元すべての要素を失わせます。

この点への対応策は、「この学習性無力感を学習棄却し、意見を言えば検討される雰囲気を新たに学習してもらう」ということです。具体的には、日常業務や組織運営に関する改善希望を社員から広く出してもらい、その内容を検討して着実に実行していくことで組織に対する信頼感を醸成していく方法があります。

組織への信頼が一定以上のレベルになれば、全員が希望のポジションに就くことができなくても、キャリアに関する自分の意見をそれぞれがきちんと考え、発信していく文化を育てることは十分に可能です。

オススメ本(3冊)

──キャリア・アダプタビリティについて学びたいと考えているHRパーソンにオススメの本を教えてください。

それぞれ違う特徴を持った3冊をご紹介します。

偶然をチャンスに変える生き方─最新キャリア心理学に学ぶ「幸運」を引き寄せる知恵/諸富 祥彦(著)

著者の専門であるトランスパーソナル心理学(心理学の一分野として1960年代に創始され、精神分析、行動主義、人間性心理学に次ぐ第四の勢力と言われることもある領域)をベースに、最新のキャリア理論と変化への対応を分かりやすく説明してくれる1冊です。

プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術/田中 研之輔(著) 

変化の時代に必要な要素を、「より長く面白く」仕事をしていくという観点で整理してくれています。

無気力の心理学 改版 やりがいの条件/波多野誼余夫、 稲垣佳世子(著)

文中にて説明した「学習性無力感」に対抗していくために必要な要素が、短い内容の中に凝縮して紹介されています。

編集後記

「企業に自身のキャリアを委ねるのではなく、自分ゴトとしてキャリアを捉え運用していく必要がある」今の時代、この考えに異を唱える方は少ないでしょう。でも実際に「どうすれば自らのキャリアを自在に創っていける基礎力が身につくか」について自分なりの考えや意見を持っている方は多くないかもしれません。

鴻池さんが紹介してくれた「4つのディメンション」をどう高めていくか。ビジネスパーソン個人としてはもちろん、人事担当者として社員に関与する上でも、このテーマは日々追求していく必要があるのだと感じました。

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