「プロフェッショナルな引きこもり」が選択した、自分の強みを最大化させる働き方
自身を「プロフェッショナルな引きこもり」と揶揄する松永さん。その言葉通り、福岡に拠点を置きながら主に東京のスタートアップ・ベンチャー企業の採用支援をフルリモートで行っている。4年以上このスタイルを貫き、ほとんどのクライアントと一度も会わずに仕事を進めているというから驚きだ。
人事という人に関わる仕事にも関わらず、本当にそんなことが可能なのだろうか。そのような働き方に至った背景も含めて、今回お話を聞くことができた。
<プロフィール>
松永大輝
早稲田大学在学中に社労士試験合格後、新卒で社労士法人に入社。約3年でベンチャー企業から上場企業まで延べ10社の人事労務のサポートを経験。同時に株式会社ユーキャンの社労士試験講座非常勤講師を兼務。そこから社内人事へ転身し人事領域全般を担当した後、2016年4月より個人事務所「Ad Libitum」(ad-libitum.jp)設立。人事コンサルティング業・執筆業・講師業などを複数企業より受注。2018年から拠点を東京から地元福岡に移し、フルリモートで主に東京のスタートアップ・ベンチャー企業の採用支援を行いつつ、半常駐で福岡企業の採用・労務支援を行っている。
目次
基本SlackやChatworkのみ。フルリモートでも成果を出して選ばれる方法
僕は、特別なキャリアや能力を持った人間ではない。
現在、計5社(東京4社・福岡1社)の採用・労務支援をフルリモートで行っています。Webで打合せをすることもほぼありません。基本SlackかChatworkで完結しています。
そういうと、「能力が高いからできるんでしょ」と言われることもあるのですが、まったくそんなことはありません。僕自身バリバリのキャリアがあるわけでもないし、人事として人を魅了するカリスマ性も、頭が切れるといったこともありません。
しいて言えば、「約束したことを何が何でもやりきる」ということを大事にしている程度です。いわゆる“凡事徹底”。これまでにお付き合いがあった企業がこのカルチャーを持っていて、影響を受けたのがきっかけです。
また、フリーランスという働き方がたまたま僕に合っていたということもあるかなと。個人的にいろんな人に配慮して仕事をすることが苦手なので、経営者や決裁者と直接やりとりできることは余計な調整をしなくていいのでラクなのです。いわゆる会社的な働き方も無理すればやれないこともないでしょうが、出世とかはきっとできないでしょうね。
フルリモートだからこそ大事にしていること。
フルリモートで成果を出すためにこだわっているのは、その「マメさ」。たとえば、レスはできれば30秒以内に返したいと思っています。できれば直接会話しているくらいのスピードが理想。遠隔にいる人同士が連携して仕事を進めるのですから、コミュニケーションのスピードは何より重要です。
これは単純に「気合で早くレスしなさい」「いつでもチャットに張り付いていなさい」という話ではありません。実はコミュニケーションのスピードを上げるために重要なのは「文章力」です。
僕が仕事で関わるのは経営層の方々が大半。そんな忙しい方だからこそ、パッと見て理解できる短い文章にすることを念頭にチャットをしています。その具体的な方法をここでお伝えするのは難しいので割愛しますが、レスの早さとは純粋な返信時間だけではなく、その内容の伝達速度でもあるのです。
もちろん、相手によってやり方もカスタマイズしています。Slackでメンションつけるつけないとか、スレッドにするしないとかも会社によって違います。そういった傾向を早めにつかみ、好みに合うコミュニケーションを選択することが欠かせません。
コーナーから紹介していただいた2社とも対面していませんが、上記のようなコミュニケーションを心掛けたことで、「初めての業務委託活用で不安があったが、安心して仕事をお任せできた」「遠隔でも一緒にプロジェクトを進めている感じが持てた」という声をいただくことができました。
とはいえ、5社同時進行には苦労も。
5社を同時進行しているので、急ぎの案件が同時多発すると優先順位を決めるのにアタフタしてしまうことは正直あります。また情報量やタスクも膨大なので、自分の頭の中だけで整理しておき、仕事が変わるごとに都度頭を切り替えることは不可能です。
そこで、ToDoリストやメモアプリなどを使用して、すべてツールにアウトプットするようにしています。そうすれば頭で覚えておく必要がなく、「この会社では次に何をすればいいんだっけ?」という時でもそれさえ見ればやるべきことが分かるからです。
また、時間のやりくりにも苦労することが多いですね。特に、採用系の仕事は直接個人の方とやり取りするため、デイタイム中になんとか対応するしかありません。必然的に時間が限定されてしまいます。
時間の使い方は今でも改良を続けていますが、フルリモートということもあり良い意味で仕事とプライベートの切り分けをなくすことでストレスなく対応できています。
たとえば、夜中に仕事をして日中は遊びに行くことも。疲れた時にしれっとマッサージに行き、2~3時間ほど身体を休めることもあります。この自由さが僕には合っているなと思うんです。自分の家だと好きな音楽を流しながら仕事ができますし、大きな声では言えませんがTV見ながらチャットしていることもありますから(笑)
これはリモートワーカーやパラレルワーカーに限った話ではありませんが、こういった工夫をできるかどうかはとても大切です。失敗しながらでもなんとかやれる方法を考えることができれば、特に大きな準備をしなくてもこういった働き方は誰にでもできるのではないかと思いますね。
今の働き方に至るまでの道
一匹狼タイプだった大学時代。
これは大学というか、もっと辿ると子ども時代からそうだったのですが、いわゆる典型的な一匹狼タイプでしてね。みんなでワイワイガヤガヤするのがどうしても好きになれない人間でした。
特に一番合わなかったのが、事あるごとにみんなで飲み会やったりイベントやったりみたいな感じの会社のカルチャー。 このようなカルチャーが本当に耐えられなくて……生理的に受けつけないというのはこういうことかと改めて実感したもんです。
そんな性格なので、いざ大学で就職活動が始まってもOB訪問や会社訪問もせずに自己分析ばっかりしてました。結果エントリーシートに書けるものがひとつもないといった有様。学生時代から人と関わったりリーダーシップをふるったりということをしてこなかったので、そんな人間が会社に入ったところで活躍できるはずはないという感覚が何となくあったことを覚えています。
一般的な就職活動に違和感を感じて選んだ社労士の道。そして迷走。
就活がスムーズにいってなかったこともあってか、「総合職」という募集形態に違和感を感じていました。だって、職場も仕事内容も選べないんですよ。冷静に考えるとそれっておかしくないですか?と。
元々専門家志向が高く、当時人事や労働法に興味があったこともあり、大学在学中に社労士資格を取って新卒で社労士法人に入社。その後、とはいえ事業会社も経験したいなと思ってIT系ベンチャー・不動産ベンチャーの2社へ転職したのですが、組織で働くのが合わずにどちらも半年くらいで辞めてしまいました。
20代半ばで3社経験。しかも直近2社は半年も経たずに退社。こんなキャリアじゃ今後が思いやられると考えていたところ、ネットを見ると「一緒に事業をやりませんか」とか、「うちの人事を手伝ってくれませんか」という会社が2社くらいあったので、そこを手伝うことからリスタートすることにしたのです。
危機感から、目の前にあることに全力で取り組んだ結果のフリーランス
そこを手伝っているうちに、徐々に頼まれることが増え、結果的に業務範囲が広がっていきました。最初はちょっとお手伝いしようと始めた感覚だったので、「フリーランスになるぞ!」と意気込んでいたわけではありません。気づけばそうなっていたという感じです。
ただ、これだけ拡大できた背景には一種の“危機感”のようなものが常にあったから。
社労士をやっていた当時はマイナンバー制度や電子申請とかが走り出した頃。今後電子化したりAIに代替されたりして、年取ってから仕事がなくなるのではという不安がいつも頭の片隅にあったのです。ちょうど時代的にもリーマンショックや震災などがあった頃で、外部環境が大きく変化してしまう怖さを実感しているので、生きる力を持っておかなければという想いは強い世代なのかもしれません。
これらを背景に、自分にできることを少しでも増やそうとした結果が、今の働き方につながっているなと振り返って思います。
企業・個人それぞれから見たフリーランス人事のメリット
企業から見たフリーランス人事を活用するメリット
まだまだフリーランス人事を活用する企業は多くありません。ですが、基本的には多くのメリットがあると思います。
まず1つは、「自社にないノウハウを仕入れることができる」点。
ぶっちゃけた話、僕自身も他社で上手くいったやり方やテンプレートなどを別の会社でガンガン使い回していますし、似た業界の会社事例を共有することもあります。その会社だけでなく業界全体の底上げにもつながるので、世の中的なメリットも結構大きいんじゃないかなと思っています。
もう1つは、「外部からの目線で意見をもらえる」点。
良くも悪くも、自社で採用しないタイプの人と仕事したりするので、自社に無い視点をきっと得られるはずです。それがシナジーになる事もあれば、全然ぶつかって機能しない事もあって、一長一短だとは思うんですけど。
またこれは僕の場合ですが、フルリモートの距離感だからこそ言えることもあって。面と向かってだと遠慮しちゃうことでも、遠隔だからこそズケズケ言えちゃったりするんですよね。「あ、言い過ぎたかも」と思うこともあるのですが、それが逆に良いと評価されてすごく頼られるようになった経験もあります。
特に経営者はズバッと言うと話が早い。そのほうが僕も仕事がしやすいですし、まさにwin‐winだなぁと思いますね。
個人から見たフリーランス人事を活用するメリット
個人的には「やめてください」って感じですけどね。だって、ライバルが増えると困るじゃないですか。これ以上優秀な人が出て来て欲しくないです(笑)。
それは冗談として、一番のメリットは「いろんな業界のいろんなポジションの市況感が分かったり経験の幅が広がったりするところ」だと思います。1社だけだとどうしても知識や経験が限定的になってしまいがちです。人事として能力を上げるためにも、それだけは絶対に避けたい。
ただ特にパラレルワークをする際に気をつけるべきポイントは「言い訳しない」こと。現職が忙しいとか、残業長引いてできませんでしたとか、お金をもらっている以上そんなことを言い訳にしてはいられませんからね。プロ失格ですよ。そういうのは多いですけどね、実際。
あらためて振り返るこれまでと、今後の展望
自分と向き合って作り上げてきたキャリア
ここまでお伝えした通り、僕のキャリアは正直全然戦略的に積み上げてきたものでありません。周囲にも恵まれて期待に応えているうちに自然とそうなったという感じでしょうか。同業の経営者とかにそう話をすると、「2・3年後はどうなりたいの?そのために何すんの?」とかガンガンに詰められたりするので、あぁ自分は何も考えられてないなと落ち込むくらいです。
しかし、一貫してこだわってきたのは「自分に正直に生きる」ということ。自分の性格を理解し、最大限力を発揮できる環境を選んできたからこそ今の働き方があると考えています。
働く場所や住む場所に特にこだわりがあるわけではないし、旅をしたいわけでもないですが、「どこでも仕事ができる」という自由さがとても気に入っています。また上司とかの制約もなるべく受けたくない。受けるときっとパフォーマンスが下がる人間ですし。あと飲み会とかもめんどくさいですね。まぁ今となってはフルリモートなので、そもそも誘われることもないですが(笑)。
景気が後退してきたときに、どう生きるか
今は人手不足で景気も若干良いので人事の仕事も多くありますが、これが景気後退すると採用費や広告費が一気に削られる可能性があります。そんな時にどうするかということも今から考えておかなければいけないなと常々思っています。
そのリスクヘッジというわけではないですが、博多のベンチャー企業の人事を社員として週20時間以下くらいでやっています。もちろんフルリモートで。社員として人事全般をやりつつ、2/3くらいはフリーランスとして両軸で回すのがバランス良いかなと思っています。
今後は収入をもっと増やしたいなと考えています。今の自由度は保ちたいので、会社を作って人を雇って……みたいなイメージは全くありません。しかし、やってることがどうしても労働集約型なので、ここをなんとかしなければ収入増は実現できないでしょう。
今は人事採用領域のスペシャリストとしてやっていますが、今後は別の能力開発をしていく必要も感じています。ただゼロスタートするイメージはないので、現状の何かと掛け合わせて、みたいな形になるのかなと。何をするにせよ、自分の性質をちゃんと理解して、無理なく力を発揮できるスタイルを選ぶことは何より大事だなと思いますね。
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