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働きがいを生む「ジョブ・クラフティング」を企業に取り入れる方法とは

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仕事に働きがいを求める人が増える中、「ジョブ・クラフティング」が近年注目を集めています。仕事を「やらされているもの」ではなく「主体的に取り組むもの」に変容させることができるという概念です。

この言葉は日本でも2016年頃から徐々に認知されてきましたが、まだまだ情報が少ないのが現状です。そこで今回は、リクルートをはじめさまざまな業界で組織開発コンサルティング経験を持つパラレルワーカーの林 紀彦さんに、「ジョブ・クラフティング」の概念とその導入方法などについてお聞きしました。

<プロフィール>
林 紀彦/株式会社LIFULL 人事本部組織開発グループ責任者
NTT東日本にて営業・営業企画を経験した後、リクルート社にて組織開発コンサルタントに従事する。通信、金融、人材、製造業などに対するコンサルティングを実施。その後、日本M&Aセンターにて組織統合などのプロジェクトを経て現職。
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ジョブ・クラフティングとは?

──まず「ジョブ・クラフティング」について教えてください。

ジョブ・クラフティング(job crafting)とは、 働く個人が主体的に仕事に新たな意味を見出したり、仕事内容の範囲を変えたりすることを指します。「自身の仕事を、意味のあるものに変えていく」と言った方が伝わりやすいかもしれません。

「やらされ仕事に追われている」
「退屈な作業ばかりでモチベーションが上がらない」

こんな状態に陥っている方の仕事への取り組み方を見直し、主体的に働くための意欲向上や意識変容を図る──それが「ジョブ・クラフティング」です。

「あなたはどうしたい?」というリクルート社に伝わる有名な合言葉がありますが、これも主体性を引き出し、自身の仕事の捉え方を変容させるきっかけとなる言葉です。

私自身がリクルートに在籍していた頃も、よくこの言葉を使ったフィードバックを上司から受けていました。「ジョブ・クラフティング」という言葉が日本で使われるようになる前から、リクルート社は企業文化として根付いていたということでしょう。

なぜ今、ジョブ・クラフティングが注目されているのか

──「ジョブ・クラフティング」というキーワードが注目されるようになった背景には何があるのでしょうか。

その背景には、「VUCA時代(※)」とも呼ばれる社会的な変化による影響が大きくあります。

※VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワードとして使われています。

事業環境の変化が早くなったことで、仕事の複雑性・不確実性・曖昧性が増しました。そのため、組織から与えられた仕事をこなせば必ず成果が出て、達成感・満足感が得られる時代ではなくなっているのです。

その結果、以下2つのことに影響が出てきています。

1.仕事の意味や意義を感じにくい

VUCA時代を迎え、事業を取り巻くスピード感が劇的に上がったことにより、失敗を許容し学ばせるような余裕のある仕事を従業員に与えることが難しくなりました。失敗が許されないと、できる人にしか仕事が任されなくなります。それ以外の従業員には曖昧で成果が出るかどうか分からない仕事がアサインされた結果、「確実な成果につながるかわからない」「最終的な成果にどのような影響を与えているかわからない」といった声が増えており、自らの仕事の意味や意義を感じることが難しくなってきています。

2.組織と従業員の関係性の崩壊

事業成長が前提となっていた職能資格制度が1970年頃から導入され、「この組織で与えられた仕事をすれば昇進できる」という価値観が世間一般に認知されてきました。長期雇用や年功的賃金が当たり前の環境では、「この会社でこの仕事をする意味」を従業員自ら見出す必要性は小さなものでした。

しかし、「1つの会社でキャリアを積んでいく日本型の雇用を見直すべき」と日本経済団体連合会(経団連)の中西宏明会長が提言したように、昨今は会社と従業員の長期的な関係性が崩れてきています。長引く不況やテクノロジーの進化もそれを強く後押ししています。

こういった影響から、従業員は与えられた仕事をこなすだけでは将来的なキャリアアップが見込めなくなりました。それが個人のキャリア開発の重要性を高めることにつながり、主体的に仕事を捉え、関わり方を見つめ直し、1つひとつの仕事を意味づけていく「ジョブ・クラフティング」が注目されるようになったという訳です。

ジョブ・クラフティングを企業で導入する方法

──「ジョブ・クラフティング」を導入する際、どのような手順で行うのが良いでしょうか。

「仕事内容と、自分自身の動機や強みを繋げていく」ことが王道なやり方です。しかし、これをすんなり実行へ移せるかというとそうではありません。なぜなら、多くの人は「自分自身」や「与えられた仕事内容」を深く考えた経験がないからです。

ジョブ・クラフティングを考える上で、自分の価値観や仕事を深く理解することは非常に重要です。そこで、まずはそれらを言語化する方法をご紹介します。

ジョブ・クラフティング ワークシート

業務内容 カテゴリ この仕事の目的 この仕事を通して
得たいこと
体験して
分かったこと
①の回答 ②の回答 ③の回答 ④の回答 ⑤の回答

①業務内容(単純なタスクの記入でOK)
②業務内容の抽象度を上げた要約
③何のために行うことなのか?
④この仕事を通じて得たいもの、自分自身にとっての意味。この時に、「仕事内容(工夫)」「仕事の捉え方」「仕事と人の関わり方」の観点で考える
⑤ありのまま感じたこと

<回答例>
①ブログ作成
②情報発信
③自分自身の考え方や経験を言語化すること/人の成長に関わること
④考えや経験を言語化し、再現性の高い知識にすることで、自分の成長につなげること/これまでの仕事ではない分野にチャレンジして、成功体験を積むこと/関わった人からのダイレクトなフィードバックを得ること
⑤「人の成長に関わること」に興味があることに気づいた/そのために人の成長に関わる体験をして、自分自身の成長につなげたい

このシートに「業務内容」から「気づき」を得るまでのプロセスを5つ記載していきます。おそらく大半の方は業務内容を書くことはできても、それを要約してカテゴリ分けしたり、仕事の目的を書いたりすることがままならないはずです。

最初は目的まで書ければ十分ですが、その後の仕事を通じて得たいことや、自分自身にとってどのような意味を持たせるか、まで書けるようになることが、ジョブ・クラフティングにおいては大切になってきます。なぜならそれは「結果」に大きな違いを生むからです。

1つ、私のリクルート時代の例を挙げましょう。

年末のある時、若手の私と同僚のAさんはそれぞれが所属する部署の忘年会幹事を任されました。

私はまず上司や先輩の趣味嗜好を聞き、それに見合ったお店を予約。当日の催しを考え…など、ごく普通の準備を進めていきました。終わった後に部署の人から「よく頑張ってくれたね」と労ってもらい、それなりの成果を出すことができたと思っていました。

しかし、同僚のAさんに対する評価はそれを大きく上回るものでした。

Aさんはこの忘年会を業務と捉え、2つの意味づけをしていました。1つは、上司や先輩にこの忘年会を通じて新たな体験をしてもらうこと。もう1つは、飲み会のファシリテーションを通じて控え目な性格を打破できる能力を身につけることでした。

結果、その忘年会はかつてないほどの盛り上がりを見せ、Aさんはその企画者として社内でも注目を浴びることに。その後もその勢いのまま飛躍的に成長し、年間トップセールスとして表彰を受け、数年後には驚きの早さで独立していったのです。

「同じ業務・体験をしても、捉え方や意味づけが違うだけでこんなにも景色が変わるのか」

そう衝撃を受けたことを今でも覚えています。

ぜひ上司や人事の方は、メンバーとの1on1や定期面談の際にこのシートを見ながらサポートしてみてください。記入内容に深みがなくても問い詰めてはいけません。笑顔で質問を投げかけ、内省を促してください。もちろん、問いかける側も同じように事前に意味づけを行い、その内容を開示した上でメンバーに語りかけることを忘れてはいけません。

ジョブ・クラフティングを行う上で注意するべき点

──上司や人事の方が先ほどのワークシートを使ってジョブ・クラフティングを行う際、特に注意するべきポイントなどはありますか。

ジョブ・クラフティングは「仕事の内容や方法」「人間関係」「仕事の捉え方」を変えるものであり、すぐに身につくものではありません。内省を何度も繰り返した上でようやく言語化できるようになるものであるため、その過程からサポートすることが大切です。

その中で具体的に陥りやすい失敗は以下3つです。

1.抽象度が高く、具体的にならない。

特に「仕事の目的や意味付け」の部分においては、それぞれ抽象度の高いものになりがちです。例えば「●●を頑張って人に認めてもらう」みたいな書き方では、達成ラインが不明瞭になってしまいます。何をどの程度行うのか、結果とは何か、どのようなアウトプットや行動ができるようになるのか、を具体的にイメージできるところまで言語化することが必要です。

2.相手を問い詰めてしまう。

ジョブ・クラフティングを推進するためには、思ったことを何でも言い合える、実行できるような雰囲気作りが何よりも重要です。そのため仕事の意味付けや他者との関係性を捉えなおして行く際、上司や関係者がネガティブな反応をしたり、考えに深みがないからといって問い詰めたりしないように気を付けましょう。上司が思う以上に、メンバーは上司のリアクションに敏感です。

3.上司自身がジョブ・クラフティングを実践していない

上司が日々ジョブ・クラフティングを体現していること。これがメンバーへの一番のメッセージになります。「背中を見せること」はもちろん大切ですが、それ以上に重要なのは「メンバーに語りかける・伝える」こと。上司自身が仕事に働きがいを見出し、それを語る姿を見ることで、メンバーも見習うようになるからです。そのため経営者や人事が組織にジョブ・クラフティングを浸透させる際は、まずは管理職から理解を進めていくと良いでしょう。

オススメ本(2冊)

──ジョブ・クラフティングについて学びたいと思っているHRパーソンに向けて、お薦めの書籍があれば教えてください。

キャリア・アンカー 自分のほんとうの価値を発見しよう/エドガー・H. シャイン (著)

個人の譲れない軸となる価値観や欲求、能力などの人生の錨(キャリア・アンカー)を見つけ出し、キャリア選択や決定に役立てるための方法がまとめられており、ジョブ・クラフティングを考える上での「自己理解」につながる書籍です。

さあ、才能(じぶん)に目覚めよう ストレングス・ファインダー2.0/トム・ラス(著)、古屋 博子(訳)

180問の質問に答えることで自分の強みを分析し、その強みの解説を読むことで自己理解を深めることができます。こちらもジョブ・クラフティングを考える上での材料として役立つ一冊です。

編集後記

「お金のためだけに働く時代は終わった」と言われることが最近特に増えました。しかし「では、どのように従業員にやりがいを感じてもらうか」についてはまだまだ情報が多くありません。そのためこのジョブ・クラフティングという概念は、今後さらに注目されていくものだと感じました。

しかし、ジョブ・クラフティングはあくまで概念です。「大切なことはやり方ではなく、物事の本質を考えていくことにある」そう林さんが語る通り、仕事の意味づけを行い、捉え方や他者との関わり方まで思考を巡らせることの繰り返しこそが、この変化の激しい時代を豊かに生きる方法なのかもしれません。

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