組織力を決定づける「組織文化」の正体とは
組織文化の研究組織であるKatzenbach Center(カッツェンバック・センター)が2017~2018年に行ったグローバル調査によると、日本企業の回答者のうち、8割が企業選びの重要な要素として、7割が組織を離れる理由として組織文化を挙げたという結果が出ています。これはグローバル平均と比較しても高い数値で、特に日本市場において組織文化は避けて通れないテーマです。
しかし抽象的な概念であるため、その定義があいまいな場合が多く、文化の形成方法などについて触れられることが少ないように感じます。
そこで今回は、株式会社 LAVA International人材開発部長の青山真実子さんに、組織文化の定義や形成方法、実例なども含めて話をお聞きしました。
<プロフィール>
青山 真実子(あおやま まみこ)
株式会社 LAVA International人材開発部長
フランチャイズ事業を中心とした経営・人事コンサルティングとして活躍したのち、女性雇用支援事業を行うベンチャー企業にて、事業本部長・人財開発責任者を務める。全社の事業戦略立案に携わりながら、人事領域としては採用・教育・管理職育成・女性活躍推進までの全般を責任者として経験。その後独立し、事業・人事の両側面にて活躍したのち、2020年9月より現職。
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目次
組織文化とはそもそも何か
──組織文化は企業にとってどんな意味を持つのでしょうか。
組織文化とは、その組織単位の「精神的財産」だと捉えています。具体的に整理すると、以下のような形です。
・社員に共有された価値観そのもの
・社員の考え方や行動の規範となっているもの
・日常業務の中で、先輩から後輩へ、上司から部下へと、学習しながら継承されていくもの
ただ、これらが明確に言語化されている企業は多くありません。「当社の組織文化は〇〇です」と明言できる経営層もまたしかりです。
明文化された行動指針、バリューなどのことを組織文化と表現することもありますが、それは組織文化の一部が表面化したものに過ぎません。それらの根底にあり、空気のように根付いているもの。明文化されずとも自然とカルチャーになっているもの。こういったものが組織文化であると考えています。
1.まずは経営者が精神の実践をし、
2.その過程において、経営者の価値観が確立され、
3.企業として共有していくべき価値観や、思考の行動規範の確立と定着を図り、
4.改変されながら継承していく
一般的に組織文化はこの4つの形成段階(順序)で出来上がっていきます。組織の学び、物事の見方、考え方の基準など、これまでの蓄積が文化をつくり、組織の「精神的財産」として受け継がれていくという形です。
また、組織文化には「逆機能」と言われるものがあります。これは組織メンバーの思考や行動パターンが均一化することにより、多様性が失われたり、新たな考えや行動が生まれなくなるという逆の効果のことを指します。「4.改革のステップ」において、最適な状態を常に試行錯誤することが重要とも言えます。
良い組織文化の作り方と、それを保つ方法
──どのように良い組織文化は作られ、維持されるのか。その方法論を教えてください。
まず「良い組織文化とは何か」から考えていきましょう。いろんな考え方があり、どれが正解というわけではありませんが、私個人としては以下5つの要素が互いに作用できている状態が「良い組織文化」だと考えています。
1.同一の危機感
2.共通の価値観
3.自信と信頼
4.感謝の気持ち
5.高い欲求水準
この5つを醸成するための具体的な方法と手順をご紹介します。
1.同一の危機感
①組織目標と現状を比較し、現在地を正しく認識させる
②問題形成力を向上させる
③オープンなコミュニケーション・ルートを整備する
危機感は置かれている立場や役割によって異なります。それぞれの立場で、正しく危機感を持つことが重要です。
2.共有の価値観
①組織として共有すべき価値観を明確にする
②共有すべき価値観をあらゆる方法で浸透させる
組織内に浸透させる上で大事なのは「企業側から一方的に押し付けてはいけない」ということです。あくまで社員との信頼関係をベースとして、対話の中で浸透させていく必要があります。
3.自信と信頼
①「疑似体験」を豊富にさせる
②「成功体験」を豊富にさせる
まずは疑似体験によりできるイメージを持たせ、その上でチャレンジさせることにより成功へと導くことで、社員それぞれの自信を醸成し、組織に対する信頼を高めていくことができます。ただ慢心へと繋がらないよう、定期的に振り返る仕組みは必要です。
4.感謝の気持ち
①「気づき」を得させ、その「気づき」を持続させる場を作る
②感謝の気持ちが起こりやすい状況を作る
具体的な例としては、成果発表の場を作ったり、感謝対象者へその想いを伝える場を作ったりといったものです。こういった場をまずは作ることで、自然と気づきや感謝といった感情を生むことができるようになります。
5.高い欲求水準
①個々人の欲求を喚起する
②どのように欲求を実現して行くか、方向を明らかにする
③欲求を更新して、高めて行く
組織はもちろん、社員個人の欲求に基づいた行動計画を作成し、日常のレビューの中で振り返ったり更新したりしていきます。ただし、行動計画がそもそもなければ、単に組織からの要求を突きつけるのみとなってしまい逆効果となります。
組織文化を変える必要のある組織とは
──組織文化を変える必要性は、どんなところから判断すれば良いでしょうか。またそのための手法や考え方についても教えてください。
「経営陣やマネージャー層が不平不満を抱えている状態にもかかわらず、二面性が渦巻いている状態」は、即座に組織文化を変革するべきだと思います。
なぜなら冒頭でも説明した通り、組織文化とは組織の蓄積から生まれる「精神的財産」であり、経営陣やリーダーなどから発信され続けてきた価値観の蓄積だからです。
この状況を改善するためには、経営陣を変化させるしかありません。
組織が定めた「共有していくべき価値観」とズレた考えを持つ経営陣とは、とことん向き合って変革させる必要があります。特に経営者の右腕となるような、組織に対する影響力の大きいポジションから手をつけるべきです。それでも変革の兆しが見られないようであれば、経営陣の入れ替えも含めて検討する必要があるでしょう。
これを担当する変革のリーダーは、「なぜ変革しなければいかないか」を日々の業務の中で繰り返し泥臭く反復していくしかありません。いくら適切なものでないといえ、これまでの文化を積み上げてきた方々に敬意を払いながらも、時にドラスティックに組織を変革していくことが求められます。
組織文化の変革成功事例
──実際に青山さんが手がけた組織文化の変革事例を教えてください。
新卒が入社したタイミングで、あらためてクレドや組織文化を明言化させるためのプロジェクトを発足した時の事例をお話します。
<状況/課題>
新卒が大量に入社したことで、クレドや組織文化を明確にして継承する必要が生じた。
<取り組んだこと>
①経営者やマネジメント層が日常業務の中で実際に使ったメールや言葉のやり取りを集め、一冊の本に仕立てあげた。
②この本を全社に配布した上で、それを元に改めて共通用語やクレドを作り直し、それぞれの業務レビューにこの共通言語やクレドを組み込んだ。
③毎月の全社会議にて、体現者による講話を実施し、全社員に実際の事象を用いて組織文化を疑似体験させた。
<注意した点>
「浸透」の要素が強すぎると、いわゆる宗教的な要素を生んでしまうため、社員の不信感を煽る形になってしまう可能性がある。そこで経営陣とメンバー感で温度差が出ないように、変革の担当者である私自身が各部署に入り込んでそのバランスを取るように心がけていた。
<結果>
新卒メンバーを中心にクレドや組織文化が体現されるようになり、その先にある現業績目標の連続達成にも寄与することができた。
ご覧いただいてお気づきの方もいるかもしれませんが、これら3つの取り組みは基本的に先ほど紹介した不変の原理原則に基づいたものです。
1.まずは経営者が精神の実践をし、
2.その過程において、経営者の価値観が確立され、
3.企業として共有していくべき価値観や、思考の行動規範の確立と定着を図り、
4.改変されながら継承していく
①で行ったような「共有していくべき価値観」の作成は、実は難しくありません。それよりも難易度が高いのは、それらを「浸透」させるアクションを取り続けることです。
経営陣やマネジメント層の考えを一冊の本にし、そこからクレドや行動規範を作成したとしても、それらが風景化してしまっては意味がありません。場を設け、社員に疑似体験させ、ゆくゆくはそれに基づいた成功体験を積んでもらう。とても泥臭い行動ではありますが、この地道な取り組みことが成功への近道だと思います。
オススメ本(2冊)
──組織文化について学びたいと思っているHRパーソンに向けて、お薦めの書籍があれば教えてください。
ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現 /フレデリック・ラルー (著)
日本語を含め17カ国語に翻訳され、累計35万部を突破するベストセラーになりました。本記事でも紹介した「5つの組織タイプ」についても詳細に説明されており、予測不能な現代(VUCA時代)に対応するための進化系組織モデル「ティール組織」について実例も踏まえて紹介されています。これからの組織づくりを考えるリーダー必読の一冊です。
すべての組織は変えられる/麻野 耕司 (著)
すべての組織は病んでいる / 戦略至上主義という病 / 犯人探しという病 / 会議が空回りする病 / 「最近の若者は」という病 / 「何回同じことをいわせるの?」という病 / ものさし不在という病 / 決断が先送りにされる病・・・という病をあげて、それらに対してどう取り組むかを解説した書籍です。
理論ではなく実践の書籍になっており、1時間くらいで読めるため最初の一冊としてもお薦めです。
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編集後記
リモート環境下で働く方も増え、組織への帰属意識やモチベーションの低下を課題に感じている企業も増えました。その対策としてMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の見直しや、組織文化の再浸透などといった取り組みも多くなったように感じます。
しかし、組織文化は小手先の取り組みでどうにかなるものではなく、これまでの積み重ねの上に成り立つものだということを、青山さんの言葉から再認識することができました。改革を焦って安易に内容を変更したり、表面化された言葉だけに捉われたりするのではなく、その企業自身が歩んできた歴史を振り返るところから変革をスタートすることが、組織文化においては有効なのかもしれません。